Newsletter No.5   30 November 1998

 

ムシカ・スヴェシエ・モダンクラシックス

 Musica Sveciae (ムシカ・スヴェシエ) のシリーズは、スウェーデンのクラシカル音楽アンソロジーとして、世界中の音楽ファンに楽しみを与えてきました。古代から20世紀初頭までの作品を収録したこのシリーズにつづいて、新たに1910年代から1945年の間の作品を対象とする “ムシカ・スヴェシエ・モダンクラシックス” シリーズが発足します。スウェーデン音楽情報センター、スウェーデン放送、そしてスウェーデン王立音楽アカデミーの共同事業として行われ、Phono Suecia レーベルからリリースされます。ラインナップはつぎのとおりです。

 エドヴィン・カルステニウス 管弦楽作品集
 ヒルディング・ルーセンベリ バレエ音楽《街のオルフェウス》
 ヨン・フェーンストレム 管弦楽作品集   ヨースタ・ニューストレム 管弦楽作品集
 ダーグ・ヴィレーン 管弦楽作品集  モーセス・ペルガメント 室内楽作品集
 テューレ・ラングストレム 管弦楽作品集  グンナル・ド・フルメリ 室内楽作品集
 ラーシュ=エーリク・ラーション 管弦楽作品集  エルランド・フォン・コック 管弦楽作品集
 ヒルディング・ルーセンベリ オペラ《至福の島》
 合唱とオルガンのための作品集  スウェーデン・バレエ音楽集
 ヴァイオリンソナタ集  室内楽作品集  歌曲集 (2CD's)
 ソロ協奏曲集  カンタータ集  管弦楽作品集  ピアノ作品集 (2CD's)

 以上20組のアルバムが、毎年4組ずつのペースで5年間をかけて発表される予定です。第1回発売のカルステニウスのCDの指揮者がB・トミー・アンデションとなっていることから、放送録音の転用ではなく、新録音されるものと想像されます。ルーセンベリの《街のオルフェウス》のように録音の待ち望まれていた作品が含まれているので、スウェーデン音楽情報センターに詳細を照会しています。

 

フェロー諸島のレーベル "Tutl"

 フェロー諸島は、ノルウェーとアイスランドのほぼ中央の北大西洋に位置するデンマークの自治領です。17の島に約45,000人が暮らし、音楽活動も活発。北欧各国から2人ずつのメンバーが派遣されている北欧音楽委員会 (NOMUS) にも、オブザーバー1人が参加しています。このフェローの諸島に、Tutl(トゥトル) − フェロー語で“ささやき” − というレコードレーベルがあります。主宰するのは、作曲家、ジャズミュージシャンのクリスチャン・ブラク Krisitian Blak。日本に窓口がなかったために、一部のファンの間でしか知られていなかったレーベルですが、カタログを取り寄せておどろきました。小規模のレーベルにもかかわらず、民俗音楽からクラシカル音楽、ジャズからポップス、ロックと、幅広いレパートリーのCDが70枚も発売されています。

 そのなかからフォークダンスの音楽、ジャズ、洞窟でのライヴ録音、管弦楽作品、室内楽作品そして合唱作品というバラエティに富んだ9枚のCDが試聴用に送られてきました。それぞれに楽しいアルバムですが、クラシカルのジャンルのなかで特に興味をひいたのは、4枚のCDに分けて収録されたクリスチャン・ブラクの3曲の弦楽四重奏曲 (FKT5, FKT8)、フルート協奏曲 (FKT4) とクラリネット協奏曲 (FKT7)、そして “無垢の風” (FKT9 ソンライフ・ラスムセン Sunleif Rasumessen (b.1921) 作品集) と “海草の兄弟” (FKT12 パウリ・ウイ・サンダジェーレ Pauli í Sandagerði (b.1955) 作品集) という2枚の合唱作品のアルバムです。ブックレットの解説によると、彼らは3人ともフェロー諸島の民俗音楽の響きを基調にして、そのうえで独自の音楽を作ろうとしており、そのためでしょうか、どの作品もほかの北欧諸国の音楽とは違った響きを聞かせる音楽です。同じ北大西洋でありながらアイスランドの音楽とも異なっています。その独特の響きを聴くと、彼らが “フェロー諸島” の音楽にこだわり、自分たちの音楽に誇りを持っているのももっともなことに思えます。デンマークの木管五重奏団 “ボレアス (Boreas)” が録音したディスク (FKT6) から聞こえてくる音楽もフェロー諸島の空気を運んでくれると言えそうです。

 クリスチャン・ブラクは、1947年デンマーク生まれ。オーフス音楽院で学んだ後、1974年にフェロー諸島に移り住み、フェロー作曲家協会、トーシュハウン・ジャズクラブ、スンマルトウナル音楽祭など、フェロー諸島の音楽活動の中心人物のひとりとして活躍しています。彼の1988年の作品、即興音楽グループとテープのための組曲《変化》は1998年度のNOMUS賞にノミネートされました。いろいろなスタイルの作品があるなかでは、フルート協奏曲に代表される人懐こく穏やかな音楽が特に魅力的です。ジャズや民俗音楽のグループでピアニストとして活躍しているため、と言い切っていいのかどうかはわかりませんが、彼の作品はとても “リスナーフレンドリー” な音楽です。

 2枚の合唱のCDには、一部をのぞいてアカペラ合唱のための作品が集められています。どちらのアルバムも素朴さの感じられる作品と、新しい傾向の作品の両方が含まれていて、ふたりの作曲家のプロフィールを違った角度から見ることができます。2枚とも素晴らしいアルバムですが、しいていえばラスムセンよりサンダジェーレのほうがフェロー諸島の民俗音楽の肌合いが強く感じられて − タイトルどおり「どことなく“海の香り”がする」といえそうです − とっつきがいいかもしれません。デンマークの合唱団アルス・ノーヴァ Ars Nova それにノウアトウン Nóatón ヴォーカルアンサンブルと カルミナ・マリティマ Carmina Martitima というフェロー諸島のふたつのグループが、作品の美しさを素直に表現した演奏で楽しませてくれます。

 Tutl のクラシカル音楽のリストがありますので、詳しい内容はそちらを参照してください。次回の新譜は、デンマークのラース・グラウゴー(2曲)、ヤン・メゴーそしてブラクの4曲のハープ協奏曲を収録したアルバムになるとのことです。

 

ベント・セーアンセンのポートレート・アルバム

 今デンマークでもっとも元気のある作曲家のひとり、ベント・セーアンセン Bent Sørensen (b.1958) のポートレートアルバムがリリースされました (dacapo 8.224075)。ロンドン・シンフォニエッタに作曲を委嘱され、1996年コペンハーゲンで開催された第3回デンマーク作曲家ビエンナーレで演奏された《影の国 (Shadowland)(1888-89) をはじめ、5作品が収録されています。同音楽祭のプログラムから想像するところ、NOMUS賞受賞作のヴァイオリン協奏曲《朽ちゆく庭園 (Sterbende Gärten)(dacapo 8.224039) と同じように “管弦楽の色彩と響き” を楽しむ作品と思われます。これで、1996年10月17日初演の交響曲 (1995-96) とアルディッティ四重奏団委嘱の《叫びと憂鬱 (Schreie und Melancholie)》(1995) が録音されれば、彼の代表作がそろうことになります。

 

北欧合唱団 "Aurora Borealis"

 エリザベト音楽大学の在校生とOBで構成する、ヒロシマ・バッハ・ソロイスツというグループがあります。なかなか意欲的なグループで、先日のコンサートでもバッハのカンタータとモテットの素晴らしい演奏を聴かせてくれました。楽譜をよみなおすことによる“アンチ・ロマンティックな”解釈と無理のない発声による歌唱はトン・コープマンなどの演奏にも共通する現代的なスタイルといえそうです。

 その彼らがいま、来年の春を目標に "Aurora Borealis" という北欧合唱団の組織を準備しています。トイヴォ・クーラ、ペッテション=ベリエル、オスカル・リンドベリ、シグールビョルンソンらの作品がライヴで聴けるというのは北欧音楽のファンにとっては願ってもないことなので、私たちも楽譜の入手など、大いにバックアップしていこうと思っています。近い将来、大束省三さんが主宰される北欧合唱団などとのジョイントコンサートも開催できるよう、実力ある合唱団へ向けて、まずは北欧言語に挑戦するという課題が待ちうけています。彼らの活動に声援を送っていただけるよう、私たちからもお願いします。

(TT)


HOME

© Nordic Sound Hiroshima

CD artwork © Tutl (Faroe Islands)