Newsletter No.6   7 January 1999

 

シベリウス自作自演の《アンダンテ・フェスティーヴォ》

 フィンランド政府は、1939年夏ニューヨークで開催されるワールドフェアを祝うために、大統領と外務大臣のメッセージとともに、シベリウス指揮のフィンランド放送交響楽団による《アンダンテ・フェスティーヴォ》の演奏をアメリカに向けて短波放送する計画をたてました。シベリウスがこの放送用録音のためにアイノラの自宅を離れヘルシンキの放送局を訪れたのは1939年1月1日だったと記録されています。この日は天候が悪く、吹雪に見舞われたために、到着が遅れ、ギリギリのところでリハーサルと録音を終えることができたということです。

 歴史的に貴重なこの録音はラッカーマスターに収録され、壊れやすいマスターディスクのバックアップのため、その後も何度となくコピーが行われたようです。そして、問題が起きたのは、その何度目かのコピー作業の時です。放送局の担当者の何でもないミスのために、他の指揮者による同曲の録音に誤ったラベルが貼られ、そのために全く別の演奏がシベリウスの自作自演の録音として放送局に保存されることになってしまいました。このコピーがその後の復刻のオリジナルとなり、1970年代にLP化されて全世界に流布したのもこの別人による録音です。

 この問題に新たな展開があったのは、1994年の春、オリジナル盤のリマスターによる “シベリウスの《アンダンテ・フェスティーヴォ》” のCD化が企画された時のことです。この企画のプロデューサーが調査していたフィンランド放送局の多数のラッカー原盤の中に、極めて良好な状態の《アンダンテ・フェスティーヴォ》が発見されました。ラベルにシベリウスによる録音との記載があり、音質も良好だったために、当然のことながらこの録音がシベリウスの自作自演としてCD化されることになりました。この時は、新たにCD化された音源は単にいくつもあるコピーのひとつとしか考えられておらず、この演奏がそれまでシベリウスの自作とされていた録音と違うという話がおきたのは、このCDを添付した雑誌が発売された後のことでした。

 ファンの指摘を受けて関係者の間で事実関係の調査が行われ、当時90歳の元フィンランド放送のヴァイオリニストの証言によって、この新たに発見された録音こそ正真正銘のシベリウスの《アンダンテ・フェスティーヴォ》だと決定づけられました。それでは、FinlandiaKoch-Schwann から発売された “シベリウスの《アンダンテ・フェスティーヴォ》” は誰の演奏によるものだったのか、残念ながら、現時点では、無名の指揮者による録音だろうということしかわかっていないようです。

 先ほど触れたとおり、この “本物” の録音を収録したCDはもともとフィンランドの音楽雑誌の付録用に企画されたために、市販はされず、雑誌のバックナンバーが在庫切れになってからは入手不可能なアルバムになってしまいました。

 そのシベリウス自らの録音がやっと一般に入手できるという知らせが入ってきました。Ondine が企画している “シベリウス希少作品集 (仮題) というアルバムに、この録音が収録されるとのこと。この春発売予定で、シベリウスのバラード《囚われの女王》とフィンランド放送の音源による交響曲第6番、そしてヘルシンキ大学創立350周年記念アルバムに入っていたヨルマ・パヌラ指揮によるロベルト・カヤヌスの交響詩《アイノ》が同じアルバムに納められることになっています。ただ、オンディーヌ社のキールネン氏によると、当初予定していた、シベリウスの義弟アルマス・ヤルネフェルトによる第6番の放送録音に音質上の問題があるために、現在その他の録音を調査中とのことなので、最終決定までには今すこし時間がかかるかもしれません。いずれにしてもフィンランド放送には数多くの歴史的な録音があるので、結果がわかるのも時間の問題だと思われます。

 

Ondine の新譜計画から

 Ondine (オンディーヌ) の新譜としては、2月にエルッキ・メラルティンのヴァイオリン協奏曲がヨン・ストゥールゴールズのヴァイオリン、セーゲルスタム指揮タンペレ・フィルの共演で発売されることになっています。同じCDには抒情組曲第3番と劇音楽《眠れる森の美女》の組曲が収録されるので、これまでに紹介された6曲の交響曲につづき、とかくシベリウスの陰にかくれがちなメラルティンがどんな音楽を私たちに聴かせてくれるのかが楽しみです。

 3月になると、ラウタヴァーラの合唱と管弦楽のための《最後の処女地》が発売予定としてあげられています。エドガー・アラン・ポーの作品からインスピレーションを得たといわれる作品です。1998年ヘルシンキでの初演の際にはスタンディング・オヴェーションを受けたと伝えられます。今年が生誕70周年の彼にとっては、オペラ《アレクシス・キヴィ》のアメリカ初演が行われるなど、相当に忙しい年になりそうです。

 同じ3月には、サカリ・オラモ指揮のタンペレ・フィルの演奏でノルドグレンの交響曲第3番と第5番が予定されています。第5番は昨年同じメンバーで初演されたばかり。 これが初録音ということになります。

 

シベリウスの音詩《レンミンカイネンの伝説》原典版録音

 現在もっとも注目されるフィンランドの若手指揮者のひとりオスモ・ヴァンスカとラハティ交響楽団は、これまでBISレーベルにヴァイオリン協奏曲、交響曲第5番そして音詩《ある伝説》の3作品の原典版の録音を行ってきました。このコンビの新しいプロジェクトは交響詩《レンミンカイネンの伝説》です。トゥルク大学で発見されたパート譜を基にスコアが復元され、第1曲の《レンミンカイネンとサーリの島の娘》と第4曲の《レンミンカイネンの帰郷》の2曲に、現行版にくらべ特に大きな違いがあるということです。第1曲ではオーケストレーションに相違があり、第4曲のほうは、現行版の約480小節に対してオリジナルは850小節と、倍近くも長さが異なるということなので、いったいどんな音楽になるのか、早く聴いてみたい気がします。シベリウスの遺産の管理者の了解がとれさえすれば、この一月にも録音が行われ、六月にはCDとして発売するとのことです。

 

スウェーデンの新しいレーベル Daphne

 1998年スウェーデンに Daphne (ダフネ) という独立系のレコードレーベルが誕生しました。オーナー兼プロデューサーのビョン・ウデーン氏は30年間にわたってスウェーデン放送交響楽団のオーボエ奏者を務めたという経歴の持ち主です。“望みうる最高の音楽と演奏と録音” を達成するためにはあらゆる努力を惜しまず、録音に際してもスウェーデンEMIやスウェーデン放送の技師を起用するという力の入れようです。

 それ以上にこのレーベルの特色となるのが録音する作品の選択です。初回のライナップにも、ルーセンベリの2曲のピアノ協奏曲といった貴重な作品が含まれており、これからも他にCD化されていない作品を中心に録音していくようです。余談になりますが、ルーセンベリの協奏曲の第1番の方は第1楽章と第2楽章だけの未完の作品で、第3楽章はスケッチが残されているだけのようです。今回の録音のソリスト、マッツ・ヴィードルンドとライフ・セーゲルスタムの指揮により1992年1月25日スットクホルム、ベールヴァルドホールで初演されましたが、CD録音にあたっては、Phono Suecia の新シリーズでルーセンベリの《最後の審判》前奏曲を録音した、スウェーデンの新鋭ペッテル・スンドクヴィストが指揮者に起用されています。ヴィドルンドの独奏ともども、力強さと繊細さを兼ね備えた演奏が行われており、このCDは初録音盤という以上の価値あるアルバムになっているように思えます。

 現在製作が進行中のアルバムにもフェーンストレムの弦楽四重奏曲集という楽しみな作品もあり、今後の動向が注目されるレコードレーベルになりそうです。

 

フィンランドのレーベル MILS

 このたび新たにフィンランドの独立系レーベル MILS (ミルス) と契約することになりました。レーベルの名称はオーナーのマルック・イマリ・ルッリ=セッパラ Markku Imari Lulli-Seppälä 氏の名前のイニシャルからとられています。ルッリ=セッパラ氏は、青年時代にトゥオマス・ハーパネンらについてヴァイオリン演奏を学び、その後エレクトロニクス技術の分野に進み、1970年代末からはプロフェッショナルの技師として自然な音場を感じさせる録音の実現に努力してきたということです。

 録音のことを除けば、このレーベルの最大の特色はその多彩なレパートリーにあります。シベリウスをはじめとするフィンランドの作曲家の珍しい作品は当然として、JS・バッハ、ハイドン、フォーレ、あるいはホルストやヴィラ=ロボスまで、古今の作曲家の曲もフィンランドを中心とする演奏家により録音されています。当面は北欧の作品のCDを中心に輸入する予定ですが、いずれ他の地域の作曲家の作品を納めたCDも取り上げていくことになるかもしれません。

 今回輸入するCDの中で特に重要なアルバムは、Ondine のアルバムには収録されていない、シベリウスのカンタータ《大地の歌》を含むオーボ・アカデミーのカンタータアルバムと、現在プロジェクトが進行中のトイヴォ・クーラ全集のうち既発売の5枚ということになるでしょう。これから日本語のリストを作ることになるので詳細の紹介は別の機会に譲りますが、先の6枚の概略は次のとおりです。

MILS9027  オーボ・アカデミー・カンタータアルバム
 シベリウス:カンタータ《大地の歌》作品93 (1919)
 ヨン・ロサス:オーボ・アカデミー進級式典カンタータ

MILS8923 トイヴォ・クーラ:ピアノとオルガン作品全集
  マッティ・ラエカッリオ(ピアノ) エルッキ・アリコスキ(オルガン)

MILS9133 トイヴォ・クーラ:歌曲全集 第1集
  ペンッティ・ペルクサロ(テノール) ヨルマ・ヒュンニネン(バリトン)ほか

MILS9234 トイヴォ・クーラ:歌曲全集 第2集
  シニッカ・ラエカッリオ(ソプラノ) ライモ・ラウッカ(バリトン)ほか

MILS9335 トイヴォ・クーラ:室内楽曲全集 第1集 (弦楽のための作品、ヴィオラとピアノのための作品)
 無言歌 ピアノ三重奏曲 
  アーカディ・クチンスキ(チェロ) ミンスク室内管弦楽団 ほか

MILS9336 トイヴォ・クーラ:室内楽曲全集 第2集 (ヴァイオリンとピアノのための作品)
  マンフレード・グレースベク(ヴァイオリン) マイヤ・レヘトネン(ピアノ)

 

Tutl のCD入荷について

 前回お知らせして、すでに予約をいただいているフェロー諸島のレーベル、Tutl (トゥトル) のCDが入荷しました。初回は、クラシカルのレパートリーを中心に、一部クリスチャン・ブラクの作品を含むジャズとフォークのアルバムも選んでみました。フォークジャンルのアルバムの中には1999年度の NOMUS (北欧音楽委員会) 賞にノミネートされたフォークグループ、エネク Enekk の作品も含まれています。クラシカル以外のアルバムのサンプルCDも用意していますので、他の北欧諸国とはひと味違った音楽に触れてみてください。

 

日本シベリウス協会について

 1984年に創立されて以来、日本シベリウス協会は、シベリウスやその他の北欧音楽の愛好者のために精力的な活動を行ってきました。現在はピアニストの舘野泉氏が会長をつとめ、さらに意義のある活動ができるよう、これからも様々な企画が検討されるとのことです。

 主な活動内容は、年数回の会報・協会ニュースを通じての研究発表や情報交換、会員を中心とするコンサートの開催、会員相互の親睦のための行事の開催、その他音楽関係の資料の収集と会員への公開などです。前2回の会報に連載されたシベリウスの第8交響曲についてのエッセイは会員のあいだでも非常に好評だったということです。

 新規会員募集は随時行われており、当店にも入会申込書が用意してありますので、興味のある方はご相談ください。ちなみに、会員の種類には通常会員、維持会員、法人会員の3つがあり、通常会員の場合、年会費5,000円、申し込み時の入会金2,000円となっています(1999年1月現在)。

 

広島交響楽団第189回定期演奏会

 2月12日 (金曜) に広島厚生年金会館で開催される広島交響楽団第189回定期演奏会で、コンサートの演目としてはめったに接することのない、シベリウスの《クリスチャン二世》組曲が取り上げられます。指揮は田中良和で、その他の曲目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番 (ピアノ:長岡純子) とシューマンの交響曲第1番です。このところ目に見えて実力をつけ、一昨年もオスモ・ヴァンスカの指揮で見事なシベリウスの交響曲演奏を聴かせた広島交響楽団のことですから、好演奏が期待できるのではないでしょうか。

(TT)

新譜情報

BIS CD888 アラベンヌ − 北欧トロンボーン協奏曲集
クリスチャン・リンドベリ (1958-) アラベンヌ (Arabenne) (トロンボーンと弦楽合奏のための)
  クリスチャン・リンドベリ (トロンボーン) タピオラ・シンフォニエッタ ジャン=ジャック・カントロフ (指揮)
ヴァウン・ホルムボー (1909-1996) 室内協奏曲第12番 作品52 (トロンボーンと管弦楽のための)
  クリスチャン・リンドベリ (トロンボーン) オルボー交響楽団 オーウェイン・アーウェル・ヒューズ (指揮) [CD802]
マッツ・ラーション (1965-) トロンボーンと管楽器のための協奏曲 (1995)
  クリスチャン・リンドベリ (トロンボーン)オーショッタ・シンフォニック・ウィンドアンサンブル
  アリエ・ヴァン・ベーク (指揮)
カレヴィ・アホ (1949-) 交響曲第9番 (協奏交響曲第2番) (1993-94) (トロンボーンと管弦楽のための)
  クリスチャン・リンドベリ (トロンボーン) ラハティ交響楽団 オスモ・ヴァンスカ (指揮) [CD706]

CD918 ジャン・シベリウス (1865-1957)
 《カレリア (Karelia)》組曲 作品11 (原典版)
  間奏曲 (Intermezzo) バラッド (Ballade) (管弦楽とバリトンのための)
  行進曲風に (Alla marcia) [CD915]
 劇音楽《国王クリスチャン二世 (Kung Kristian II)》作品27 (劇場版初稿)
  エレジー (Elegie) (序曲) ミュゼット (Musette) メヌエット (Menuetto)
  愚者の歌う蜘蛛の歌 (Sången om korsspindeln) (管弦楽と歌のための)
  夜想曲 (Nocturne) セレナード (Serenade) バラッド (Ballade)
 劇音楽《ペレアスとメリザンド (Pelléas et Mélisande)》 組曲 作品46 (劇場版初稿)
  前奏曲 (Förspel) (城の門で) アンダンティーノ・コン・モート (Andantino con moto) (メリザンド)
  アダージョ (Adagio) (浜辺で) 前奏曲 (Förspel) (外苑の泉) 前奏曲 (Förspel) (糸を紡ぐメリザンド)
  トランクィッロ (Tranquillo) 「三人の盲目の姉妹 (De trenne blinda systrar)」 (管弦楽とメッツォソプラノのための)
  アンダンティーノ・パストラーレ (Andantino pastorale) (田園詩) 前奏曲 (Förspel) (間奏曲)
  第9曲 (テンポ指定なし) 前奏曲 (Förspel) (メリザンドの死)
  ライモ・ラウッカ (バリトン) アンナ=リサ・ヤコブソン (メッツォソプラノ) ラハティ交響楽団
  オスモ・ヴァンスカ (指揮)

Content SAK4610-4 クリス・ニューマン Compassion (コンパッション) (1993)
  アンナ・リンダール (ヴァイオリン) ヘンリク・レーヴェンマーク (ピアノ)

Hurv KRCD21 ストックホルムのクラヴィーア
 手稿譜集《Mathias Silvius Svenonis Stockholm 29 Mart.1721》から (6曲)
 オーロフ・ルデーン編纂手稿譜集 (17世紀・18世紀) から (3曲)
 ユーハン・ヘルミク・ルーマン (1694-1758) 組曲第3
 『音楽娯楽』 (1789-1834刊) 掲載の譜集から
  グレンサー、オールストレム (?)、バルク、セッテルホルム、ラーゲルフェルト、プレイエル、
  コリン、ユーハン・スヴェンソンの作品
 ユーハン・アグレル (1701-1765) ソナタ第6番ト短調
  インゲル・グルディン (クラヴィコード)

KMH KMHCD5 オーロフ・オーロフソン
 画家モーヴィツへ 歌曲集《ウォルト・ホイットマンの9つの詩》 歌曲集《エアコンのきいた悪夢》
  マレーナ・エルンマン (メッツォソプラノ) ウッレ・ペーション (バリトン) オーロフ・オーロフソン (ピアノ)

MAP MAPCD03 ベンクト・ハンブレウス (1928-2000) ポートレート 第3
 オルガン・ミサ − オリヴィエ・メシアンの思い出に (ヴァージョンA・ヴァージョンB) (1992)
 オルガンのための典礼 (1951-52)
 MIDIをともなうトリプティク − ミカエル・ハムブレウス (1961-1994) の思い出に (1994)
  ハンス・ヘルステン (オルガン) [聖ペテロ教会 (マルメ) のマークッソン・オルガン]


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CD artwork © BIS (Sweden)