Newsletter No.8   15 March 1999

 

Sterling の新譜

 音楽史の中に埋もれていた作品を次々とCDで紹介しているレコードレーベル、Sterling(スターリング)は、今や“スウェーデン・ロマンティック音楽の旗手”とさえ言える存在になりました。このことは、先ごろ雑誌に掲載された大束省三氏の特集記事にもあるとおりです。その Sterling から、これまでCDでは作品を聴くことがなかったと思われるアルベット・ルーベンソン Albert Rubenson (1826-1901) の管弦楽作品集がリリースされます (CDS1029-2)

 ルーベンソンは、“素人作曲家だらけのスウェーデン音楽に新風を”の志をもって留学先のライプツィヒから戻りはしたものの、当時の視野の狭い音楽界から理解されることはなかったようです。結局、作曲家としての名声を得ることもできないまま、ストックホルム音楽院の理事に就任します。しかし、持ち前の几帳面な性格から、まさに適任者との評価を受け、長くこの地位に留まることになります。ルーベンソンはこの音楽院で、学生だったヒゥーゴ・アルヴェーンに出会いますが、ふたりの仲は険悪なものだったようです。ルーベンソンが、たいした根拠もないまま、個人的な好き嫌いからアルヴェーンの作品を“剽窃”呼ばわりしたことに原因があった、と言われています。

 祖父がユダヤ教のラビ(司祭)だったにもかかわらず、ルーベンソンの音楽からはユダヤ系という民族的背景は感じらません。交響曲について、Sterling のブー・ヒュットネル氏から「きわめて私小説的、牧歌的な性格の作品なので、“壮大な音楽”は期待しないように」とのコメントが寄せられています。このディスクに収録された曲を聴いた限りでは、ルーベンソンは、ベールヴァルドとペッテション=ベリエル − “スウェーデンのディーリアス”と呼ばれることもあります − の牧歌的世界を橋渡しする作曲家と位置づけられていいかもしれません。ちなみにルーベンソンは、ヒュットネル氏の曾祖母の又従兄弟にあたるということです。

 Sterling のディスクがもう1枚。こちらは、新譜ではなく、去年のクリスマスシーズンに合わせてリリースされたアルバムが入荷します。隠れた名曲のガイドブック、《無名名曲鑑賞会》 (鈴木康之・矢口正巳共著 文化書房博文社 1994年) に交響詩《死の島》がとりあげられた − 「曲全体を包む音詩的美しさ」とコメントされています − アンドレアス・ハッレーン Andreas Hallén (1842-1925) の《クリスマス・オラトリオ》(1904) のスウェーデン放送によるライヴ録音です (CDS1028-2)。演奏時間は約59分。合唱をともなうテノールのレチタティーヴォやソプラノのアリア、そして二重合唱曲などで構成された、オルガンと管弦楽を伴う大規模な作品です。スウェーデン国内向けの版は近日入荷しますが、スウェーデン語・英語両方の解説を掲載した国際版の発売は、今年のクリスマスのことになりそうです。

 

フィンランドの元気のいいレーベル Alba

 フィンランドのレーベルというと、ひところまでは Finlandia(フィンランディア)のことを思い浮かべたものでした。しかし、このレーベルも、ワーナーグループに入り、すっかり“メージャー”になってしまってからは、以前のように魅力的なCDを発売することも減り、ファンは寂しい思いをしていました。もっとも、最近になってパルムグレンやラウタヴァーラの男声合唱曲集などの新録音が出るようになったので、これからは期待してもいいのかもしれません。

 Finlandia が元気をなくしている間に、Ondine(オンディーヌ)という新興のレーベルが、シベリウスの初録音作品や、メラルティン、ラウタヴァーラの交響曲など、とても面白いアルバムを続々リリースして、すっかりフィンランドを代表するレーベルになってしまいました。そのことはすでにご承知のとおりです。

 そのフィンランドにもうひとつ、Alba (アルバ) という個性的なレーベルがあることは、マイナーなものの好きな北欧音楽のファンの方はすでにご存じのことと思います。作品や演奏者のラインナップから、“思わず手にとってみたくなる”ような洗練されたアルバムデザインまで、アルバのディスクは一枚いちまい丁寧に製作されていることを感じさせてくれます。シベリウス、メリライネン、ラウタヴァーラのブラスアンサンブルのための作品を収録した “青春の魅力と情熱” (ABCD102)、ハルヤンネの独奏トランペットによる協奏曲集 “トランペット体験” (ユッカ・リンコラのトランペット協奏曲第2番、コープランドの《静かな都会》、他) (ABCD108)、同じハルヤンネをリーダーとするブラスタイム・カルテット BrassTime Quartet の “ブラスタイム” (ヒンデミットの《朝の音楽》、バシュマコフの《女神テルプシコラーの跡を》、他) (ABCD105)、ニルス=エーリク・フォウグステットのアカペラ混声合唱のための世俗作品を集めた “白樺のアーチ” (NCD4) など、静かな人気のある代表的なディスクです。個人的には、ヤンネ・メルタネンのサティー・ピアノ小品集 “サティエリーク” (ABCD115) も好きなアルバムです。チッコリーニやアンヌ・クフェレックの定評ある録音に比べると “ごく普通の” 演奏と言われるかもしれませんが、独特の “ゆれ” が面白くて、気に入っています。このフィンランドの若手によるコッコネンのピアノ作品集も、最近リリースされました (ABCD127)

 Alba のホームページを見ると、“ルメン・ヴァロ”ヴォーカルアンサンブルによるビクトリアのテネブレ (NCD10)、ペトリ・サカリ指揮フィンランド放送交響楽団室内アンサンブルのストラヴィンスキーの《兵士の物語》組曲 (ABCD120)、そしてホーカン・ヴィークマンのブクステフーデ・オルガン作品集 (ABCD123) 、以上3枚のディスクに寄せられた GramophoneChoir and Organ の2誌の批評が紹介されており、アルバのアルバムがイギリスの評論家からも好意的に受け入れられていることの一端がうかがえます。  この一月、カンヌで開催された音楽界のフェアー、MIDEMAlba のブースは熱気に満ちていたといいます。このレーベルの今後の活動からは、目が離せなくなりそうです。

 

4つのハープ協奏曲

 「ハープの独奏楽器としてのかけがえのない特質がふたたび注目されるようになったのは、20世紀後半のことです。かつては限界と考えられていた点を、今はハープの美点と捉えるようになり、協奏曲こそ作品の数が限られはするものの、この楽器のレパートリーは着実に増えつつあります。」 Tutl (トゥトル) の新しいディスク、“ハープと管弦楽のための4つの協奏曲” (FKT13) に添付された解説書は、こんな文章から始まります。

 このアルバムの4曲はすべて、ソリストを務めるメキシコ生まれのハープ奏者、ソフィア・アスンシオン・クラロのために書かれた作品です。デンマークの作曲家ラース・グラウゴー Lars Graugaard (b.1957) の《手、正体をあらわした (The Hand, Unveiled) 》 は、管弦楽による冒頭の短い提示部から、壮大な終結部まで、約34分間切れ目なく音楽がつづき、協奏曲としては長大な部類に入る作品です。オーケストラの様々な楽器が、次々と組み合わせを替えながら独奏ハープと対話し、音楽のエネルギーと色彩が目まぐるしく変化していきます。“複雑さと単純さはコインの両面”と考えるグラウゴーの作品らしい、ヴァラエティに富んだ音楽が楽しめる曲と言えそうです。彼のもうひとつの作品《庭園のオフィーリア》は、恋人ハムレットが心変わりをしたと思い込み、クロンボー城の庭園をさまよいながら、次第に精神に変調をきたしていく、オフィーリアの内面の葛藤を、劇的な緊張感のある音楽で描いた作品です。

 クリスチャン・ブラク Kristian Blak (1947-) の《竪琴 (Harpan)》はフェロー諸島のフォークバラッドを元にした作品です。「嫉妬に狂った姉が妹を殺し、死体を海に投げ捨てる。岸辺に打ち寄せられた死体を、通りがかりの男が見つけ、死体の骨と髪の毛を使って竪琴を作る。姉の婚礼の場に現れた男が、その竪琴をつま弾くと,竪琴の魔力によって姉の身体は粉々に砕けてしまう」。第1楽章《姉》が殺人にまで発展する狂気を,第2楽章《純真な娘》が犠牲者の純朴さを、第3楽章《さすらい人》が竪琴の魔力のもたらす混乱を、という風に、このハープ協奏曲は陰惨な伝説を三連の絵画として描いた音楽です。

 最後の作品、デンマークのヤン・メゴー Jan Maegaard (b.1926) のハープ協奏曲は、それぞれが7つないし8つの部分から成る、5つの楽章から構成された作品です。第1楽章の2つの部分(セクション)は第3楽章に再現、別の2つの部分は第4楽章に再現、第1楽章の最初の部分は第2楽章の終結と全曲のフィナーレに再現する、という具合に、全部で36+1の部分が一定のパターンに従って24通りに展開していきます。そのきわめて複雑な構成が《モザイク遊戯 (Jeu Mosaique)》 というサブタイトルの由来だということです。

Tutl FKT13 ハープと管弦楽のための4つの協奏曲
ラース・グラウゴー (1957-)
 The Hand, Unveiled (手、正体をあらわした) (1986-87 rev.1996)
 Ophelia in the Garden (庭園のオフィーリア) (1989) (ハープと弦楽合奏のための)
  ソフィア・アスンシオン・クラロ (ハープ)
  ケレータロ・フィルハーモニック管弦楽団 セルヒオ・カルデナス (指揮)
  [Classico CLASSCD187/188]
クリスチャン・ブラク (1947-) 竪琴 (Harpan) (ハープ協奏曲)
ヤン・メゴー (1926-) Jeu Mosaïque (モザイク遊戯) (ハープ協奏曲) (1995)
  ソフィア・アスンシオン・クラロ (ハープ)
  ヘルシンキ音楽院室内管弦楽団 ペッカ・ヘラスヴオ (指揮)

(TT)

新譜情報

Alice Musik Production ALCD022 deluxe album
アルベール・ド・リップ (アルベルト・ダ・リーパ c.1500-1551) 幻想曲とシャンソン
 おお、散り散りの歩みU (S・フェスタ 原曲) こだま (P・ジャンティアン 原曲)
 マルタン・ムノワは子豚を市場に連れて行く (Martin Menoit son pour ceau) (クレマン・ジャヌカン 原曲)
 さあ、ここにおいでよ (クレマン・ジャヌカン 原曲)
 甘美な思い出 (P・サンドラン 原曲) おお、散り散りの歩みT (S・フェスタ 原曲)
 幻想曲第13番 第9番 第7番 第4番 第10番 第2
   ペーテル・セーデルベリ (リュート)

Berlin Classics BC93932 エドヴァルド・グリーグ (1843-1907) 管弦楽作品集
 組曲《十字軍兵士シグール》 抒情小曲集 から 夜想曲 トロルの行進
 ノルウェー舞曲 組曲《ホルベルク(ホルベア)の時代から》
  シュターツカペッレ・ベルリン オトマール・スイトナー (指揮)

BIS CD989 ジェイムズ・マクミラン (1959-) 復活祭三部作 第1
 三日間の黙祷第1部《世界の解放》 (コールアングレと管弦楽のための)
 三日間の黙祷第2部《チェロ協奏曲》
  クリスティン・ペンドリル (コールアングレ) ラファエル・ウォルフィシュ (チェロ)
  BBCスコットランド交響楽団 オスモ・ヴァンスカ (指揮)

BIS CD990 ジェイムズ・マクミラン (1959-) 復活祭三部作 第2
 三日間の黙祷第3部《徹夜の祈り》
  ファイン・アーツ・ブラスアンサンブル BBCスコットランド交響楽団 オスモ・ヴァンスカ (指揮)

BIS CD996 カリン・レーンクヴィスト (1957-) 声楽のための作品集
 太陽の歌 (Solsången) (1994) (女声、2人の女性朗読者と室内管弦楽ための)
  レーナ・ヴィレマーク (ソプラノ) ニーナ・ペーション (朗読) マリア・ガレレヴ=トゥーシェル (朗読)
  スンツヴァール室内管弦楽団 ニクラス・ヴィッレーン (指揮)  [Intim Musik IMCD037]
 大地の上を歩くとき (Bara du går över markerna) (1995) (混声合唱のための)
  ウプサラ大学合唱団 セシーリア・リューディンゲル=アリーン (
指揮)  [BIS CD934]
 ティンパニの歌 − 牛寄せの呼び声 (Puksånger - lockrop) (1989) (2人の女声とティンパニーのための)
  レーナ・ヴィレマーク (ソプラノ) スサンネ・ルーセンベリ (ソプラノ)
  ヘレーナ・ガブリエルソン (ティンパニ)  [Phono Suecia PSCD85]

BIS CD997 ヨン・フェーンストレム (1897-1961) 管弦楽と声楽のための作品集
 歌曲集《Songs of the Sea (海の歌)》 作品62 (ソプラノと弦楽合奏のための)
 交響曲第12番 作品92
 中国ラプソディ《Rao-Nai-Nai's Songs (ラオ=ナイ=ナイの歌)》 作品43
  ミーア・ペーション (ソプラノ) マルメ交響楽団 ラン・シュイ (指揮)

Finlandia 3984-21446-2 夜の海辺にて − ヘイノ・カスキ (1885-1957) 作品集
 ピアノ小曲集  泉のほとりのニンフたち 牧歌 野の小川に 無言歌 ブルレスケ 夏の夜
  山の精のセレナード パンカコスキ 秋の朝 バラの園の乙女 夢 即興曲 夜の海辺にて
  古い時計台 ほか
 フルートソナタ
  舘野泉 (ピアノ) ミカエル・ヘラスヴオ (フルート)

Finlandia 3984-23393-2 フォーク・チェロの調べ
ボフスラフ・マルチヌー (1890-1959) スロヴェニア変奏曲
マヌエル・デ・ファリャ (1876-1946) スペイン民謡組曲
アストール・ピアソラ (1921-1992)  ル・グラン・タンゴ
ロジオン・シチェドリン (b.1932) カドリール
マルッティ・ラウティオ フィンランド民謡による小品
ゾルターン・コダーイ (1882-1967) チェロソナタ 嬰ヘ短調 作品4
  マルコ・ユロネン (チェロ) マルッティ・ラウティオ (ピアノ)

Finlandia 3984-23399-2 ダブル・ボウ
セルゲイ・プロコフィエフ (1891-1953) ヴァイオリンのための作品集
 ヴァイオリンソナタ第1番 ヘ短調 作品80 ヴァイオリンソナタ第2番 ニ長調 作品94b
 2つのヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 作品56
  ヤーコ・クーシスト (ヴァイオリン) ペッカ・クーシスト (ヴァイオリン)
  ライヤ・ケルッポ=ムストネン (ピアノ) イルッカ・パーナネン (ピアノ)

Kirkelig Kulturverksted FXCD201 フランスの奇跡 −ロック、ロマン主義と印象主義のフランス音楽
フォーレ、ラヴェル、マスネー、ドビュッシー、サン=サーンスほかの作品
  オーゲ・クヴァルバイン (チェロ) ホーヴァル・ギムセ (ピアノ)

KMH KMHCD7 シェシュティン・フローディンのリコーダー
作者不詳 (14世紀) ベリーチャ
GP・テレマン (1681-1767) ソナティナ イ短調
ペール・F・ブローマン (1962-) たぶん誰ひとり (1987/94)
ジャック・オトテール (1674-1763) プレリュード=ゲイ
ミシェル・ブラヴェ (1700-1769) ソナタ第3番 ホ短調
日本古謡 通りゃんせ
篠原真 (1931-) フラグメンテ
スヴェン=ダーヴィド・サンドストレム (1942-)
 アルトリコーダー、ハープシコードと弦楽のための協奏曲 (1995)
  シェシュティン・フローディン (リコーダー) レイフ・カールソン (ダルブッカ)
  ケレン・ブルース (ヴィオラダガンバ) ビョーン・イェフヴェルト (ハープシコード)
  ドロットニングホルム・バロックアンサンブル トマス・シュバク (指揮)

Rondo RCD8360 木管八重奏曲集
フランツ・クロンマー (1759-1831) 八重奏曲組曲 ヘ長調
ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン (1770-1827) 八重奏曲 変ホ長調 作品103 ロンディーノ 遺作
フランツ・シューベルト (1797-1828) 八重奏曲 ヘ長調
D72
ヨハン・N・フンメル (1778-1837) 八重奏曲組曲 変ホ長調
  デンマーク木管八重奏団

Serpent SERCD904/906 3CD's スウェーデン王立軍楽隊、行進曲集 (全69曲)
  スウェーデン王立軍楽隊

Serpent SERCD1002 スウェーデン王室近衛騎兵隊の音楽 (全22曲)
  スウェーデン王室近衛騎兵トランペット隊


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CD artwork © Alba (Finland), Alice Musik Produktion (Sweden), Tutl (Faroe Islands)