Newsletter No.11   15 June 1999

 

ノルウェーの “母の歌”

 ノルウェーのレーベル thema (テーマ) は、新譜の2枚を加えてもアルバムのタイトル総数が10にも満たない、とても小さなレコード会社です。子供のための音楽シリーズ “小さな耳に偉大な音楽 (Great Music for Small Ears) ”と、オイヴィン・オーセ Øyvind Aase (b.1959) が演奏する北欧のピアノ曲がレパートリーの中心。彼の奥さんのグン・E・メルゴー・オーセさんがプロデューサーを務めています。 “小さな耳に偉大な音楽”シリーズのすでにリリースされた1枚《子供のための北欧ピアノ曲集》 (TH195-2) には、カール・ニルセンの《6つのユモレスク・バガテル》、オスカル・メリカントの《子供の世界から》、レイヴル・ソウラリンソンの《子供の小品》、そしてノルウェーのアルフ・フールムの《おとぎの国》などが収録され、子供だけでなく、誰がきいても楽しめるアルバムとして愛好されています。

 この thema から久々に2枚のアルバムがリリースされました。

 1枚は “母の歌 ” (TH198-2)。ノルウェーの作曲家たちによる子供のための歌曲を集めた、“小さな耳に偉大な音楽” シリーズの新作です。

 「(このアルバムは)ひとりの人間としての母親のポートレートでもあります。母親は自らの夢や悲しみを子供に歌ってきかせ、子供にとっては遊び相手であり良き指導者。子供のための民謡に基づいたダーヴィド・モンラード・ヨハンセン David Monrad Johansen (1888-1974) の《10のノルウェー子守歌 (Ti Norske Barnerim)》には、やさしい歌も荒々しい歌も含まれていて、うち何曲かは愛の歌でもあったりします。まるで母親がしゃべりながら考え事をしているかのようです」

 ブックレットのこの文章が、このアルバムの性格を的確に言い表しているのではないでしょうか。歌われているのは、モンラード・ヨハンセンの作品、アガーテ・バッケル・グロンダール Agathe Backer Grøndahl (1847-1907) の《子供の春の日 (Barnets Vaardag)》 と《母の歌 (Mor Synger)》− アルバム・タイトルとなった曲集 − ルードヴィーグ・イルゲンス・イェンセン Ludvig Irgens Jensen (1894-1969) の《寓話と子守歌 (Fabler og Barnerim)》第1集と第2集、エドヴァルド・グリーグの《子供の歌 (Barnlige Sange)》作品61。愛情のこもったバッケル・グロンダールの16曲の歌曲、子供たちの笑顔と好奇心いっぱいに見つめる瞳が想像できそうなイルゲンス・イェンセンの楽しい歌。ソプラノのオーシル・シーリ・レフスダール Åshild Skiri Refsdal (b.1972) は、グンナル・フラグスタード Gunnar Flagstad の繊細なピアノ伴奏に支えられ、時には声色も使いながら、これらの愛らしい曲を語りかけるように歌っています。グリーグの曲集は教育目的で作曲されており、子供たちが歌を歌ったり、聴いたりしているうちに、自然と地理や祖国について学べるようにできています。この曲集とバッケル・グロンダールの《雪割草 (Blåveis)》など数曲をのぞき、CD初録音だと思います。

 

アルフ・フールムのヴァイオリンとピアノのための作品

 もう1枚のディスクは、アルフ・フールム Alf Hurum (1882-1972) のヴァイオリンとピアノのための作品を集めたアルバム (TH199-2) です。フールムはオスロの生まれ。ピアニストのマッティン・クヌートセンと作曲家イーヴェル・ホルテルに師事した後ベルリンに留学、ローベルト・カーンとマックス・ブルッフのもとで作曲法を学び、ここで知り合った、ホノルル出身のレズリー・ワイトと結婚、1924年ハワイを訪問、1930年代の初めに古代東洋美術の研究のためにパリで学んだ後ふたたびハワイに渡り、ホノルル交響楽団の活性化に尽力したといわれます。

 作曲家としての創作活動は1930年でストップし、その後は交響楽団の仕事とホノルルの音楽学校の教職に携わる以外は絵を描くことに専念したため、残された作品の数は限られています。CDできける作品も少なく、Simax のディスク (PSC3110) に収録された弦楽四重奏曲イ短調、交響詩《ベンディクとオロリリヤ》、交響曲ニ短調の3曲、そして《子供のための北欧ピアノ曲集》の《おとぎの国》以外は、フラグスター(フラグスタート)が録音した、歌曲《青白い夜》くらいのものだと思います。

 ヴァイオリンとピアノのための作品は、この新しいアルバムに収録された2曲のソナタと《異国情緒の組曲》がすべてです。これらの曲には、彼の他の作品同様、古典的ロマン的作風と印象主義、そしてノルウェーの民族様式といった異なる性格が同居しています。第1番のソナタは初演時に「この作品の真価は、ゆったりとした流れるような旋律線にある」と評され、第2番については「(第1番のソナタの)青春の香りと魅力のかわりに、内省や意志とでもいったものが感じられる。アンダンテは東洋風、スケルツォはハリングなどの民俗舞曲を思わせるリズムを持つ、明らかにノルウェーの音楽…」というペール・ライダルソンの批評が残っています。インドと中国の旋律に基づいて作曲され、1915年クリスチャニア(現在のオスロ)での演奏を聴いた作曲家ヨハネス・ホールクロウは、“見事な和声を披露した作品”との賛辞を呈しています。

 このアルバムのヴァイオリニストは、シンディングの2曲のセレナードとヴァイオリンソナタ (NKFCD50015-2) などの録音があるステファン・バラット=ドゥーエ Stephan Barratt-Due。ピアノはオイヴィン・オーセです。フールムの描いた東洋風の絵画「白いアサガオと太陽の静かな生活」が、ブックレットの表紙を飾っています。

 時期は未定ですが、ひきつづきフールムのピアノ作品全集がリリースされる予定です。新しいノルウェー音楽の先駆者といわれて将来を嘱望されながら、彼がペンを絵筆に持ち替えた理由はよくはわかっていません。録音されている作品を聴くにつけ、なんだかとても残念なことのような気がします。

 

Danacord の新シリーズ “仲のいい家族 − 父と子によるデンマークの作品”

 バッハやモーツァルトの例をひくまでもなく、家族そろって作曲家というのは音楽史の上では珍しいことでもないようです。デンマークを代表するひとたちの中にも父と子の組み合わせは7つか8つはあるといわれます。コペル、ベンソン、ゲーゼ、ハンメリク、ヘルステズ、ランゴー。Danacord (ダナコード) の新しいシリーズ “仲のいい家族 − 父と子によるデンマークの作品” は、親子は似たような音楽を作ったのか、あるいは子供は父の才能を受け継いだのか、そんな興味にこたえるために立てられた企画です。

 シリーズ第1作はヨハン・ペーター・エミリウス(JPE)・ハートマン Johann Peter Emilius Hartmann (1805-1900) とエミール・ハートマン Emil Hartmann (1836-1898) の父子の管弦楽作品集です。クーラウやニルス・W・ゲーゼらとともに “デンマークの黄金時代” を代表する作曲家JPEの作品からは、デンマークの自然を輝かしいオーケストレーションによって描く演奏会序曲《秋の狩 (En efterårsjagt)》と、暗い色調の導入部から勇壮なフィナーレへと展開していく音楽《ヘーコン・ヤール (Hakon Jarl)》序曲。彼の “デンマーク的” な作品と “古代北欧の響き” のする作品が1曲ずつ選ばれています。序曲は、1844年3月24日王立劇場で行われた、デンマークを代表する彫刻家ベアテル・トルヴァルセンの葬儀の際に初演された作品です。

 息子エミールは3曲。戦闘と武勇の物語を簡潔な、時としてロマンティックな表情にかわる主題で描く、イプセンの劇のための《ヘルゲランの戦士たち (H&aeling;rmændene på Helgeland)》序曲。この曲はエミールの管弦楽作品の傑作とされています。導入部の透明な響きの金管のコラールが印象に残ります。そして父と同じく、スカンディナヴィアにおけるキリスト教と異教の衝突を描く悲劇、エーレンスレーヤーの作品に題材をとった交響詩《ヘーコン・ヤール》が収録されています。この曲も終結部で金管楽器によって透明な響きのコラールが奏されます。チェロ協奏曲は、第2楽章のカンツォネッタはむろんのこと、すべての楽章で “歌う楽器” チェロの特性が遺憾なく発揮されたロマンティックな作品です。

 このシリーズの次回作としてはシグフリーズとルーズのランゴー父子によるピアノ協奏曲、ニルスとアクセルのゲーゼ父子の作品集が予定されています。ほとんどが初録音で、どんな宝が隠れされているのか。デンマーク音楽のファンにかぎらず、リリースが待ち遠しいシリーズです。

 なお、Danacord からは、このシリーズとは別に、ルーズ・ランゴーのオペラ《反キリスト》とヴィクトー・ベンディクスの交響曲全集のリリースも予定されています。ベンディクスの交響曲は一度立ち消えになった録音計画が復活したもので、Danacord のブールさんの話によると、すでに1曲は録音が終わっていて、年内のリリースに向けて努力中ということです。

 

エルッキ・メラルティンのヴァイオリン協奏曲と管弦楽作品

 交響曲全曲とピアノ作品集につづき、エルッキ・メラルティン Erkki Melartin (1875-1937) のヴァイオリン協奏曲と管弦楽作品2曲が Ondine (オンディーヌ) からリリースされました (ODE923-2)

 ヴァイオリン協奏曲は1913年に作曲、1930年に改訂された後、このアルバムでヴァイオリンを弾くヨン・ストゥールゴールズが校訂して演奏するまで67年間、ずっと書庫で眠っていた作品です。第1楽章アレグロ・モデラートはヴァイオリンのいくつかの技巧的なパッセージに飾られた、メランコリックな気分の音楽。第2楽章アンダンテ・アッサイ・トランクイロでは “牧歌” とでも呼びたくなるような音楽が味わえます。そしてアレグロ・モルト・ヴィヴァーチェの終楽章は、一転して、作曲者の “カレリア人気質” が随所にうかがえる、明るく楽しい民族舞曲です。

 この作品の魅力のひとつ、色彩豊かな管弦楽の書法は、抒情組曲第3番《ベルギーの印象 (Impressions de Belgique)》で更にめざましい効果を発揮します。メラルティンにこの組曲を書かせることになったのは中世ベルギーの中心地ブルージュの街です。1914年この街を訪れた彼は、当時のたたずまいが残る曲がりくねった路地をそぞろ歩きながら、街の空気に完全に魅せられてしまったといいます。静かなコラール風の旋律で始まる第1曲《大聖堂 (La Cathédrale)》、印象主義的な《夜想曲 (Nocturne)》、生気に満ちた《スケルツォ (Scherzo)》、ハープを伴うヴァイオリンの旋律が美しい《牧歌 (Pastorale)》。ハープと木管楽器が鐘の音を模すという発想が新鮮な、第5曲《鐘 (Les Cloches)》。そして、《聖歌 − 岸辺の朝 (Hymne - Matin sur la côte)》の弦楽器と金管楽器の奏するコラール主題が壮麗に作品を締めくくります。彼の代表作のひとつとされるこの作品は、オーケストラのスタンダードなレパートリーとして、折りにふれてライヴで聴いてみたいと思わせる音楽と言っていいかもしれません。

 サカリ・トペリウスの劇のために作曲された《眠れる森の美女 (Prinsessa Ruusunen)》の組曲はメラルティンの最も有名な作品だと言われていますが、音楽の充実感という点では他の2曲にはかなわないような気がします。でも、ロマンティックな雰囲気の《序曲》、物憂げな《月明かりのバレエ》、そして《メヌエット》と《蝶々のワルツ》と《ワルツ》の舞曲が3つ。いずれも、実際に劇場でバレエをともなった演奏できけば、あとで家族そろって「楽しかったね」と言える音楽です。そんなところにこの作品の魅力があるといえるのかもしれません。実際、終曲の《結婚行進曲》はフィンランドの結婚式でもっとも人気のある音楽のひとつだということです。

 

アーレ・メリカントの2つのピアノ協奏曲

 2つのピアノ協奏曲と2つの管弦楽作品を収録したこのアルバム (Ondine ODE915-2) は、ヴァイオリン、クラリネット、ホルンと弦楽六重奏のための協奏曲《ショット協奏曲 (Schott Concerto)(ODE703-2) から始まる Ondine のアーレ・メリカント Aarre Merikanto (1893-1958) 作品の5作目のCDです。時代を先取りしすぎたとか言われ、黙殺されていた彼の音楽も1970年前後を境に演奏される機会が増えて、いまでは“フィンランドの遺産”とさえ呼ばれるほど熱烈な扱いを受けています。そして、完成から40年あまりたった1963年、作曲者の死後やっと舞台初演されたオペラ《ユハ (Juha)(ODE872-2D) は、フィンランドの最も重要なオペラと位置づけられるに至りました。

 新録音による2曲のピアノ協奏曲も、とても聴きごたえのある作品です。とりわけ印象に残るのが、"Pietá (ピエタ)" − 悲しみの聖母像 − と題された、第3番の緩徐楽章。開始とともに、高弦の持続音に重なって、何度かフルート (ピッコロフルート?) により短い3音の上昇音型が奏され、つづいてピアノが嘆きの旋律を歌います。遠くからフルートの音型がくりかえしきこえています。弦楽合奏がこの旋律を引き継ぎ、ピアノと金管のアンサンブルで交互に奏する弔いの鐘の響きがきこえるうちに、(ピアノ協奏曲なのに!) ピアノは伴奏にまわり、独奏ヴァイオリンが悲しみをこらえながら嘆きの旋律を弾きます。最後にもう一度、ピアノ、そしてヴァイオリンによる嘆きの旋律が、余韻を惜しむかのように響きます。中世フィンランド、聖ヘンリー追悼の祈りの世界にも通じる、静謐な音楽です。

 テンポが気ままに変化する、ラプソディックな第1楽章、もの悲しい気分の第2楽章、そしてフィナーレにむけて一気につき進んでいく第3楽章、各楽章のこういった性格は2つの作品に共通しています。両端楽章のダイナミックなピアニズムの音楽は、どことなくプロコフィエフやバルトークの協奏曲を思い起こさせます。両曲とも魅力的な作品で、繰り返し聴くうちに、ライヴ演奏の機会はないものだろうかなどと思ってみもしました。

 アルバムの最後には、2つの小品集が収められています − 《小管弦楽のための2つの習作》と《管弦楽のための2つの小品》。後者の《アンダンテ・カンタービレ》以外はとても短く、いずれも“習作”として書いた作品のようですが、民族舞踊を素材にした音楽に彼の思いがけない面が反映されていたりもします。メリカントの作品リストにはこういった作品が何曲かあるといいますから、それらの音楽も聴いてみたいものです。

 

ラウタヴァーラの “最後の処女地にて”

 エイノユハニ・ラウタヴァーラ Einojuhani Rautavaara (1928-) の最新アルバム (Ondine ODE921-2) には、フルート協奏曲《風と踊る (Dances with the Winds)》を含む3作品が収録されています。フルート協奏曲はフランスのフルート奏者パトリック・ガロワ Patrick Galois による、初演者グニッラ・フォン・バール Gunilla von Bahr につぐ録音。サブタイトルを《風とともに踊る》としてみましたが、 "Winds" と複数形なので、単に “風” というだけでなく “方角” という意味合いが含まれているかもしれません。それに、通常のフルート、ピッコロフルート、アルトフルート、バスフルート、と4種類の楽器を吹き分けて演奏するとの指定があること、曲中で独奏フルートがホルン群と対話するパッセージがあること、などを考えると、“管楽器” と掛けていると考えることもできそうです。作曲者に尋ねてみたいところですね。

 タイトル曲《最後の処女地にて (On the Last Frontier)》 (1998) は、エドガー・アラン・ポーの冒険小説「アーサー・ゴードン・ピムの物語 (The Narrative of Arthur Gordon Pym)」をテクストにした、合唱と管弦楽のための幻想曲です。ラウタヴァーラは子供のころ、父親の蔵書にあった、この作品の「深き淵の秘密」と題されたフィンランド語版を読み、物語の終結の “神秘的儀式” ともいえるほど異様な表現に強い衝撃を受けたといいます。そして彼は、「ほぼ60年後、70歳になろうかという時になって英語版ポー選集に出会い、原タイトルの平凡さにがっかりしながらも、終幕の数ページを読んで、初めてこの小説を知った時の鮮明な記憶がよみがえってきた」と語っています。彼にとって “必要な時が来るまで、全知の女神エルダが潜在意識として私たちの脳のなかに保存してくれていた情報” というこの作品を、ラウタヴァーラは70歳に近づく自分が到達するはずの“最後の処女地”の素材として選びます。

 『重苦しい暗黒が頭上にたちこめ、白濁した海の深みからは煌めく光が立ちのぼってきた。水平線に南の方へ向かう巨大な水蒸気の山脈が生まれた…なにか測りしれない、はるか遠くの天の城壁から海へ向けて物言わず波動する永劫の瀑布…たちまちのうちに周りを瀑布が取り囲み、われわれを受け入れるかのように深い穴が口を開けた。そして行く手に、人間よりもはるかに巨大な、屍衣を着た人影が立ちふさがった。その姿の肌は純白の雪の色をしていた』

 小説の一部を取り出して − 英文のまま − 合唱のテクストとして使うにあたり、前後の関係に不自然さが生じないよう、ラウタヴァーラ自身の手によって原文が再構成されています。

 この曲と同じ1997年に作曲された弦楽五重奏曲 (Ondine ODE909-2) には、アルテュール・ランボーの詩からとった《未踏の楽園 (Les cieux inconnus/Unknown Heavens)》の副題がつけられています。1970年代、この詩に作曲した男声合唱曲のモチーフを第1楽章に使っているということだけでなく、作曲者に思うところがあって選んだと考えるのが自然なような気がします。これらのタイトルの示す世界が彼の創作の新しい土壌となるのか、それとも彼にとっての彼岸を意味するのか、興味のあるところです。

 このディスクに収録された最初の曲、《アナディヨメーヌ (アフロディーテ礼賛) (Anadyomene)》(1968) も文学作品に関係があります。作曲者が、ジェイムズ・ジョイスの小説「フィネガンズ・ウェイク (Finnegans Wake)」のオープニングの文章を “音列” 素材とすることを考えていたため、この作品は当初《Riverrun (川流れ河岸)》 − “人間の体験のすべての流れ” と解するのでしょうか − と題される予定でした。実際に、トランペットの奏するモチーフは、最初の文章中の "Howth Castle and Environs" (ホウスの城およびその近隣)の、この小説の主人公のイニシャルとも一致させた、頭文字 H (B) - C - E の3つの音からなる音列です。そして、作曲者の初めの意図は、この曲を、ジョイスの文章を素材にして、舞台となるアイルランド東部のリフィー川の永遠の流れを描く、音楽による “映画 (movie)” に仕上げることでした。しかし、作曲が50小節ほど進んだあたりから“音楽そのものにエネルギーが蓄えられ”てきて、曲は彼の意図とも、ジョイスの作品とも関係のない方向をめざして進みはじめました。“海の泡から生まれた愛の女神アフロディーテの讃歌!”。この煌めくような管弦楽作品は、「音楽 (そして私) を “音列という拘束衣” から解放した」、とラウタヴァーラ自身が述懐するとおり、彼の作風の転機になった作品と考えてもいいように思います。

 

セーデルマンの《カトリック・ミサ》と《ケヴラールへの巡礼の旅》

 Sterling (スターリング) の新譜、アウグスト・セーデルマン August Söderman (1832-1876) の声楽と管弦楽のための2つの作品《カトリック・ミサ (Katolsk mäss)》と《ケヴラールへの巡礼の旅 (Die Wallfahrt nach Kevlaar)》は、LP (Caprice CAP1036/Musica Sveciae MS514) で発売されていた録音のCD化です。当初の予定では Musica Sveciae レーベルから発売されることになっていて、同レーベルの総合カタログにもジャケット写真が掲載されていながら、Sterling からのリリースに変わりました (CDS1030-2)

 セーデルマンの最後の大作《カトリック・ミサ》 (1875) は、1872年の《魂の歌 (Andeliga Sånger)(Musica Sveciae MSCD615) とともに、和声の豊かさを活かした新しい語法の宗教音楽として、彼の代表作と呼ばれています。どちらの作品もミサの典礼を用いながら、教会の儀式のためというより、劇場で演奏することを目的に作られた曲です。特に、トランペットがファンファーレを奏するキリエ(自身の未完のオペラの音楽を流用)や、ティンパニの連打で終わるアニュス・デイ (神の子羊) に演奏会用作品としての華やかな性格があらわれています。一方、管弦楽だけで演奏されるオフェルトリウムや、サンクトゥスからベネディクトゥスへの経過部の音楽 − 高らかな「ホザンナ」の歌声がしだいに小さくなっていき、ホルンが “森のこだま” のように答えます − には、ロマンティックな雰囲気が漂う音楽です。

 《ケヴラールへの巡礼の旅》は、死んだ恋人を悼む心の傷をいやすため、気丈な母親に連れられて巡礼の列に加わる青年を描く、ハインリヒ・ハイネの詩によるバラードです。同じバラードでも、彼の作品の中でもっとも親しまれている《ヘイメル王とアスローグ (Kung Heimer och Aslög)》にくらべると、宗教的なテーマを扱っているだけに情感よりも物語性が前面にでています。でも、合唱や管弦楽の静かな響きは、まちがいなく北欧の作曲家の手になる音楽だということを感じさせてくれます。

 

エドゥアルド・トゥビンの交響曲全曲の新録音計画

 エストニアに生まれ、スウェーデンに移住したエドゥアルド・トゥビン Eduard Tubin (1905-1982) の交響曲は、すでにネーメ・ヤルヴィにより BIS レーベルに全曲録音されています。新たにエストニア国立交響楽団が全曲録音することになり、フィンランドの Alba (アルバ) との間で合意に達したということです。指揮を担当するのは、マデトヤの管弦楽作品集の第1集を同じくアルバに録音した、アルヴォ・ヴォルメル Arvo Volmer (b.1962)。第2番と第5番を収録したアルバム (ABCD141) を手始めに、全5枚のCDが1999年から2002年にかけて順次リリースされる予定です。

(TT)

新譜情報

Bergen Digital Studio BD7033CD JS・バッハ (1685-1750) ゴルトベルク変奏曲 BWV988
  アウドゥン・カイセル (ピアノ)

BIS CD924 トシュテン・ニルソン (1920-1999) ソプラノとオルガンのための作品全集
  モナ・ユルスルード (ソプラノ) ビョーン・コーレ・モー (オルガン)

BIS CD927 アルベリーク・マニャール (1865-1914) 交響曲第1番 ハ短調 第2番 ホ長調
  マルメ交響楽団 トーマス・ザンデルリング (指揮)

BIS CD998 ジャン・シベリウス (1865-1957) 混声合唱と女声合唱のための作品集
 風の合唱 (Kör av vindarna) (1888) 息子の花嫁 (Sonens brud) (1889/90)
 花 (Blomman) (1888) バラッド (Ballad) (1888) 秋の夕べ (Höstkvällen) (1888)
 思い (Tanken) (1888)
 3つのカルミナリア (Carminalia) (1899) (女声合唱とハルモニウムのための)
  見よ、新しき喜びを (Ecce novum gaudium) 天使が遣わされる (Angelus emittur)
  重荷を競い (In stadio laboris)
 望郷 (Kotikaipaus) (1902) ようこそ王妃さま (Terve ruhtinatar) (1896)
 大地は息づく (Nejden andas) 作品30
 3つのカルミナリア (1899) (混声合唱のための)
 小学生の行進曲 (Kansakoululaisten marssi) (1910)
 素晴らしい贈り物 (Härliga gåvor) (Kantat till ord av W. von Konow) (1911)
 富も名声もいらない (Giv mig ej glans, ej guld, ej prakt) 作品1-4 (独唱と女声4部合唱のための)
 アメリカンスクールのための3つの歌 (Three Songs for American Schools) (1913)
  秋の歌 (Autumn Song) 陽は湖の上に低く (The Sun Upon the Lake Is Low)
  騎兵隊を駆り立てろ (A Cavalry Catch)
 3つのカルミナリア (1899) (女声合唱とピアノのための)
 朝靄の中で (Aamusumussa) (1897 arr.1912/13)
 富も名声もいらない (Giv mig ej gland, ej guld, ej prakt) 作品1-4 (独唱と女声3部合唱のための)
 響け、神への栄誉を讃えて (Soi kunniaksi Luojan) 作品23-6a
 偵察団の行進曲 (Partiolaisten marssi) 作品91b (1921)
 世界の歌 (The World Song of the World Association of Girl Guides and Girl Scouts) 作品91b (1921 rev.1950-52)
 1897年学位授与式カンタータ (Lauluja sekaköörille vuoden 1897 promotiooni-kantaatista) 作品23
 フィンランディア讃歌 (Finlandia-hymni) (1899)
  モニカ・グループ (メッツォソプラノ) サウリ・ティーリカイネン (バリトン) ユハニ・ハプリ (打楽器)
  アリ=ペッカ・メーンパー (打楽器) グスタフ・テュプショバッカ (ピアノ)
  カイ=エーリク・グスタフソン (ハルモニウム) ユビラーテ合唱団 アストリッド・リスカ (指揮)

BIS CD1014 ニコス・スカルコッタス (1904-1949) バレエ組曲《乙女と死》
 ピアノ協奏曲第1番 協奏的序曲
  ジェフリー・ダグラス・マッジ (ピアノ) アイスランド交響楽団 ニコス・クリストドウルー (指揮)

BIS CD1015 ジャン・シベリウス (1865-1957)
 交響詩《レンミンカイネン (Lemminkäinen)》 (4つの伝説曲) 作品22
 《レンミンカイネンとサーリの乙女たち (Lemminkäinen ja saaren neidot)》 作品22-1 (1896年版)
 《レンミンカイネンの帰郷 (Lemminkäinen palaa kotitienoille)》 作品22-4 (1896年版) (1897年版終結部)
 《トゥオネラのレンミンカイネン (Lemminkainen Tuonelassa)》 作品22-1 (1896年版) (抜粋)
  ラハティ交響楽団 オスモ・ヴァンスカ (指揮)

Con Spirito CS003 コン・スピリト室内合唱団 − 北国の調べ
ヒゥーゴ・アルヴェーン (1872-1960) 蝶々
ニルス・リンドベリ (1933-) なぞ 夜
スヴェン=ダーヴィド・サンドストレム (1942-) アニュス・デイ
レーヴィ・マデトヤ (1887-1947) Integer Vitae
ヤーコ・マンテュヤルヴィ (1963-) 水底深く父は眠る (Full Fathom Five) El Hambo
エルッキ・サルメンハーラ (1941-) 月の顔 1-4
ソルケトル・シグールビョルンソン (1938-) グリーラの子供たちの遊び
ヒャウルマル・H・ラグナルソン (1952-) (編曲) 僕らふたりは町の真ん中に立った アヴェ・マリア
アクセル・アーヤービ (1889-1942) わたしはオート麦
ベアンハート・レオコヴィチ (1927-) 3つのマドリガル 作品13
ビョルン・クルーセ (1946-) (編曲) おお、オーラ、オーラ、私の坊や
エドヴァルド・ブレイン (1887-1957) (編曲) おお、もしわたしのカナンへの道が
フリチョフ・アンデシェン (1876-1937) キリエ・エレイソン
クヌート・ニューステット (1915-) 神を讃えよ
シーグヴァル・トヴェイト (1945-) おお、この世を愛する神よ
シェル・ハベスタード (1955-) 扉を開け (《夜がやってくる》 第2楽章)
  コン・スピリト室内合唱団 ヘルゲ・ビルケラン (指揮)

Dolce Recording 0098-007 ノルウェーの歌曲集
ペール・ヴィンゲ (1858-1935)、ハルフダン・シェルルフ (1815-1868)
リカルド・ノルドローク (1842-1866)、アガーテ・バッケル・グレンダール (1847-1907)
シーグル・リ (1871-1904)、アイヴィン・アルネス (1872-1932)
アンナ・リンデマン (1859-1928)、エドヴァルド・グリーグ (1843-1907) ほかの作品
  クリスティン・タイセン (ソプラノ) アウドゥン・カイセル (ピアノ)

Euridice EUCD007 豪雨 (Skybrudd)
コーレ・デュヴィーク・フースビ (1969-)
 Rebus de Hibernicis (冬の人々のものから) (
独奏トロンボーンとエレクトロニクスのための)
クリストファー・サール (1960-)  オープニング (ヴァイオリンとトロンボーンのための)
ペトル・D・セイカ (1939) Through (トロンボーンとオルガンのための)
コーレ・デュヴィーク・フースビ/モッテン・リンドベルグ/ガウテ・ヴィークダール (1956-)
 豪雨 (バストロンボーンのための)
ヨン・バルケ (1955-) Encuentro (遭遇) (テナートロンボーンとテープのための)
ロベルト・ロンネス (1959-) レント (バストロンボーンとオルガンのための) (1985)
アルネ・ヌールハイム (1931-) OHM95 (ルーレと電子音のための) (1995)
  アルヴィド・エンゲゴール (ヴァイオリン) ビョルン・アンドル・ドラーゲ (オルガン)
  ガウテ・ヴィークダール (トロンボーン、ネヴェルルーレ)

Finlandia 0630-13104-2 ディズリク・ブクステフーデ (c.1637-1707) オルガン作品集
 前奏曲 ト短調 BuxWV169 前奏曲 ハ長調 BuxWV138 前奏曲 ホ短調 BuxWV143
 前奏曲 ト短調 BuxWV148 カンツォネッタ ホ短調 BuxWV169 カンツォーナ ハ長調 BuxWV163
 パッサカリア ヘ短調 BuxWV161 来たれ聖霊、主なる神 BuxWV199 甘き喜びのうちに BuxWV197
 今ぞわれら聖霊に願いたてまつる BuxWV209 われら汝に感謝す、主イエス・キリスト BuxWV224
  エンシオ・フォシュブルム(オルガン)   [デンマーク、ロスキッレ教会のオルガン] 

Finlandia 1576-53369 ウーノ・クラミ (1900-1961)
 詩篇 (1936)(独唱、合唱と管弦楽のためのオラトリオ)
  サトゥ・ヴィハヴァイネン(ソプラノ) ユハ・コティライネン(バリトン) サヴォンリンナ祝祭合唱団
  ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団 ウルフ・セーデルブルム(指揮)

Finlandia 3984-27835-2 ジャン・シベリウス (1865-1957)
 ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47 (1903 rev.1905)
  ミリアム・フリード(ヴァイオリン) ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団 オッコ・カム(指揮)
 2つのセレナード 作品69 (1912-13) (第1番 ニ長調 第2番 ト短調)
  ヤーコ・クーシスト(ヴァイオリン) クオピオ交響楽団 アツソ・アルミラ(指揮)
 2つのユモレスク 作品87 (1917) (第1番 ニ短調 第2番 ニ長調)
 4つのユモレスク 作品89 (1917) (第3番 ト短調 第4番 ト短調 第5番 変ホ長調 第6番 ト短調)
  レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン) タピオラ・シンフォニエッタ ユハニ・ラミンマキ(指揮)
 ヴァイオリンと弦楽合奏のための組曲 ニ短調 作品117 (1929)
  ヤーリ・ヴァロ(ヴァイオリン) オストロボスニア室内管弦楽団 ユハ・カンガス(指揮)
  [4509-95856-2, 4509-95859-2, 4509-98995-2‐

Fylkingen FYCD1013 アーコス・ロースマン (1939-) 電子音楽作品集
 衝動 (Impulsioni) 2つと、3つの楽器の (De två , med tre instrument)

MAP MAPCD04 USVA − ヴェウルランデルのアコーディオン
L・ピフラマヤ (1916-) ロマンティック・ラプソディ
ルイス・デ・マテオ (1955-) ポル・デントロ・デ・ミ
エドゥアルド・アロラス (1892-1924) ラ・カチーラ ロシア民謡による3つの変奏曲
C・コニャエフ スケルツォ
アストル・ピアソラ (1921-1992) セ・ポテッシ・アンコラ ルス・イ・ソンブラ コントラスト
ヴラディスラフ・ゾロタリョフ (1942-1975)
 聖テラポント修道院のデュオニソスのフレスコ画を見つめながら
ドメニコ・スカルラッティ (1685-1757) ソナタ ニ長調 ソナタ ヘ長調
ロシア民謡 (G・シェンデレフ 編曲) 森で
ゾロタリョフ パルティータ 第1
グスタヴォ・トマース (1964-) USVA
  ミンナ・ヴェウルランデル (アコーディオン)

Pro Musica PPC9039 コントラスト − ヴォーチ・ノービリが歌う合唱作品集
ハビエル・ブスト、エギル・ホーヴラン、クヌート・ニューステット、ゾルターン・コダーイ、
グスターヴ・ホルスト、ジョン・ラター、ウォード・スウィングル、ジョージ・ガーシュウィン、
ハリー・ウォーレン、ヴァーノン・デューク、ウォルター・ドナルドスン、アルフ・プレイセンの作品
  ベルゲン・カレッジ・ユース合唱団 ヴォーチ・ノビリ
  マリア・ガンボルグ・ヘルベクモ (指揮)

Rondo RCD8369 キム・ヘルヴェウ (1956-)
 ジョウアンニのマドリガーレ (Il Madrigale di Giouannni) (トランペット協奏曲》
 バレエ《The Return of Don Juan (ドン・ファンの帰還)》組曲 第1番・第2
  ケティル・クリステンセン (トランペット) コレギウム・ムジクム ミケール・シェーンヴァント (指揮)

Rune Grammofon RCD2010 SPUNK
 tapeunderlaget (テープをもとに) hornkonseerten (ホルン・コンチェルト)
 Septemberunderlaget (九月をもとに) Akershus (アケルスフース砦)
  即興音楽グループ “SPUNK

 

ワールドミュージック新譜

NOR-CD NOR-CD9829 オーセ・テイグラン − ダンサルステイネン
 フィエルマンニェンタ スペラル・グロ トネ スプリンガル ロヴェン フォスマルケン 他
  オーセ・テイグラン (ハリングフェレ)

Helio HCD7139 悪魔の調べ − トワイライドゾーンの民俗音楽
 山羊の調べ ギェルムン地方の舞曲 滝の魔法使い 悪魔の調べ 悪魔のポルス 北の山 他
  グンナル・ストゥーブサイド (ハリングフェレ) 他

Helio HCD7147 トーネ・フルベックモ、キルヤ
 ラヴ・ラヴ・ライオン ミト・ホプ・オグ・トロスト オ・ヘッレ・グッド! スピン 讃歌 他
  トーネ・フルベックモ (ヴォーカル、他) 他


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