Newsletter No12   25 July 1999

 

オープンから一年になります

 去年の7月16日、ノルディックサウンド広島がオープンしてから1年が経ちました。

 多くの方々のお力添えをいただきながら、北欧クラシカルCDの専門店としての体裁も少しずつ整ってきたように思います。心から感謝します。

 当初1250タイトルだった在庫数もいつの間にか1600に増え、北欧の音楽のレパートリーから欠くことのできないアルバムは複数枚をストックすることもできるようになりました。それでも、大事なCDが在庫切れになることもあり、まだまだ改善しなければならないと思っています。  やらなければならないことはたくさんありながら、私たちの力の限界のためになかなか思うようにいかず、本当の意味での“ノルディックサウンド広島”からはほど遠いのが現状だと思います。しばらくの間はじっくり見守っていただくしかなさそうですね。お願いします。

 フェロー諸島の Tutl そしてアイスランドの ITM と作り始めたレーベル別CDリストも、その後フィンランドの MILS、ノルウェーの NKF、スウェーデンの Sterling と少しずつ数が増えてきました。これまではカタログの整備されていないレーベルを優先して作ってきましたが、“北欧の” メージャーレーベルに対する要望もいただいており、OndineSwedish Society DiscofilCaprice あたりにも手をつけなければいけないかなと思っています。

 また、メージャーではないにしても、多くの素晴らしいアルバムをリリースしていながら収録作品数の関係で詳細をカタログに記載しきれない Bluebell のようなレーベルもあります。問題はこれらのレーベルはタイトル数が多く、なかなかきちんとしたリストにまとめ上げられないということです。とりあえず色々なレーベルのリストを並行して作成することになり、時間もかなりかかると思われますので、じっくりとおつきあいください。

 ただ、作成途中のリストであっても参考にはしていただけると思われますので、こんど設けることになったホームページで作成中のリストの内容を見ていただくことも考えています。

 ホームページの開設は少し先のことと思っていましたが、URL"nordic" が使えるうちにということもあって、パワー不足を覚悟で開設することにしました。現在少しずつ作成していますが、なかなか思うとおりにいかず、当面は乏しいコンテンツでも仕方がないかなと思っています。とりあえずニューズレターのバックナンバーや一部のレーベル別CDリストは掲載してあります。興味をお持ちのかたはご覧になってください (URL http://home9.highway.ne.jp/nordic/)

 なにもかもこれからです。これまでどおり暖かく見守っていただけるよう、お願いします。

 

クラウス・エッゲ ピアノ作品集

 エドヴァルド・グリーグ、クリスチャン・シンディング、アガーテ・バッケル・グロンダール、ハーラル・セーヴェルーなど、ノルウェーは数々の魅力的なピアノ作家を生んできました。そして、Simax から新しく リリースされたピアノ作品全曲録音によって、いくつかの交響曲と協奏曲で名前を知られていたクラウス・エッゲ Klaus Egge (1906-1979) も彼らの仲間に加わることになりそうです。

 テレマークの民族意識の強い家庭に生まれ、客として訪れるノルウェーのフォークフィドル奏者たちと接している間に、エッゲの中では民俗音楽への深い共感が育まれていったと言われます。強烈な音色とリズムのハリングフェレの音楽が少年のこころに刻み込まれたとしても、それはごく自然なことだったに違いありません。

 クラシカル音楽に触れるよりも早く民俗音楽に親しんでいたために、クラシカル音楽と出会ったエッゲは、彼にとっては新しいこの音楽を、民俗音楽と融合させてノルウェーの − そして北欧の − 心を真に表現するための素材と考えたと言われています。このピアノ作品の全曲録音は彼が民俗音楽とクラシカル音楽の関係をどのように展開していったのかを知る手がかりとなるように思います。

 彼の手法がもっとも見事な形で結晶したのが1955年のピアノソナタ第2番《哀愁のソナタ (Sonata Patética)》でしょう。民謡を素材にした彼の他の作品と異なり、伝統音楽の名残りがほとんど見あたらないにもかかわらず、この曲からは “北欧人の心” とでもいったものを感じとることができます。第1楽章グラーヴェ・ステンタート − アレグロ・アパッショーナート、第2楽章カント・エテレオ − アダージョ、第3楽章フィナーレ、クアジ・ウナ・ファンタジア。十二音技法も含め、さまざまな音楽技法を駆使して書かれていることを意識させずに − とりわけ緩徐楽章の透きとおった音楽 − 聴くものを彼の音楽の世界に誘いこんでくれるように思います。異なる道をたどりながらも、グリーグと同じノルウェーの心を共有する世界に到達することができた、あえてこう言ってもいいかもしれません。このソナタと、アルバムの最初に収録されたピアノソナタ第1番(作品4) をくらべると、エッゲの作曲活動の発展の過程がはっきりと見えてきます。

 この作品に先立つ作品1 の《甘いワルツ (Valse Dolce)》と《水彩画 (Akvarell)》の2曲 − 1927年の作品 − は、いずれもタイトルが示すとおりの雰囲気の古典的な音楽です。このアルバムにも収録されている作品番号のない《山羊の角の踊り (Gukkoslåtten)》とは違い、エッゲ自身も意味のある作品と考えたと思われます。

 しかし、その5年後、1932年から1933年にかけて作曲された第1番のソナタを聴くと、最初の2曲 − とても魅力的な作品ではあっても − がクラシカル音楽の技法と表現法を会得するための習作にすぎなかったのではないかと思いたくなるくらい、作風に大きな変化がみられることに気づきます。

 このソナタは《夢の詩 (Draumkvædet)》という副題をもち、同名の中世のバラードの旋律に基づいて作曲されています。この、クリスマスイヴから十二夜(1月6日)まで眠り続けた男、オラヴ・アステソンが夢で出会った天国と地獄を描くバラード「夢の詩 (Draumkvædet)」は多くの芸術家を魅了し、多くの作品のインスピレーションの源になったとされています。様々な旋律をもつ約30の詩から構成された長大な作品で、全体の演奏には1時間程度を要するということです。エッゲはこの中から3つの旋律を選び、ソナタの主題として使っています。彼は当時のノルウェー音楽のアウトサイダー、ファッテイン・ヴァーレン Fartein Valen (1887-1952) のもとで作曲を学んでおり、このソナタでもバラードから借用した旋律が師匠譲りの緊密な構成の音楽にバランスよくはめこまれ、おもしろい展開をする作品に仕上がっています。

 このアルバムにはあと2曲、《ハリングによる幻想曲》作品12a と《スプリンガルによる幻想曲》作品12c が収められています (作品12b の《ガンガルによる幻想曲》はスケッチしかないこともあり、録音が見送られました)。これら2曲は、民族舞曲の旋律とリズムをポリフォニックな音楽の枠組みの中に展開したおもしろい作品です。試しにこのCDの曲を作曲順にプログラムして全作品を聴いてみてください。民族音楽とクラシカル音楽の興味深い関わりが見えてきます。全曲とはいっても、1枚のCDに収まるだけの量のエッゲのピアノ曲。でも、クラウス・エッゲという作曲家を通して “北欧” を感じることができれるとすれば、充分に貴重です。

 このアルバムで明快な演奏を聴かせているトゥルライフ・トルゲシェン Torleif Torgersen は1967年生まれ。ベルゲンでアウドゥン・カイセルに学んだ後、ノルウェー国立音楽アカデミー (オスロ9 でアイナル・ステーン=ノクレベルグ、エヴァ・クナルダール、ラザーリ・ベルマンに、そしてヘルシンキのシベリウス・アカデミーでリーサ・ポホヨラに師事ています。

 

ラウラ・ミッコラのラウタヴァーラ・ピアノ作品集

 Naxos からリリースされたラウタヴァーラのピアノ作品集 (8.554292) も、これからが楽しみな若いピアニストによるアルバムです。

 演奏しているのはラウラ・ミッコラ Laura Mikkola1974年生まれのフィンランドのピアニスト。すでに ラウタヴァーラのピアノ協奏曲第1番を Naxos に録音しています (8.554147)。鳥と管弦楽のための協奏曲《極北の歌》と交響曲第3番が一緒に収められた前のアルバムとちがい、新しいディスクには1955年の《イコン》から1970年のピアノソナタ第2番まで、独奏ピアノのための作品ばかり6曲が収められています。1956年ニューヨークで作曲された《組曲 作品34》 は手元の資料を調べたかぎりではこれが初録音です。

 これは素晴らしいアルバムです。管弦楽曲、室内楽曲、声楽曲、オペラなど、幅広いジャンルにわたり優れた演奏で録音されてきたラウタヴァーラの作品も、独奏ピアノのための曲だけはこれという演奏がないような気がしていたので、待望の録音と言っても言い過ぎではないと思います。

 ラウラ・ミッコラによる新しいアルバムでは、最初に収められた練習曲(エチュード)の第1曲の開始の不協和音からすでに、管弦楽曲などで聴かれる“ラウタヴァーラならではの”という音楽が展開していきます。これまで、ラウタヴァーラのピアノ曲になんとなくもどかしさを感じていたのは何だったのでしょうか。テクスチュアの微妙な変化と和声の響きが音楽の流れにそって表情豊かに表現され、極端な言い方をすると、ラウタヴァーラがこれらの作品を管弦楽のために作曲していたとしたらどんな風に響いただろうかということまで想像させてくれます。タッチやリズムの正確さなど技術面からこの演奏の見事さを指摘することもできるのでしょうが、何より印象的なのはミッコラのピアノ演奏からはラウタヴァーラの音楽への共感がストレートに伝わってくることです。十二音技法やクラスター奏法をつかったモダニズムの作品から《極北の歌》を予見させるような印象主義的な作品まで、様式の違いに関係なく、彼女が作品から感じとった音楽が率直に、そして明快に表現されています。

 ミッコラは室内楽活動も行っており、Alba の “フィンランドのクラリネット音楽” (ABCD126) でも、クラリネットのグレゴリー・バレットやヴァイオリンのマイケル・ミルトンと共演してユッカ・ティエンスーの《モーツァルトの墓》を録音しています。これからの彼女には、エルッキ・メラルティン、ヘイノ・カスキ、オスカル・メリカントらのロマンティックなフィンランドのレパートリーにも挑戦して、これらの作品に新しい光を当ててくれることを期待したいと思います。

 

ホーカン・ヴィークマン、ブクステフーデとバッハのオルガン作品集

 ディズリク・ブクステフーデ Didrik Buxtehude (c.1637-1707) は当時デンマーク領だったスウェーデン南部スコーネ地方の都市ヘルシングボリの生まれですが、リューベックのマリア教会のオルガニストとして活躍したために、ドイツの作曲家と思われることが多いようです。しかし、しっかりと構成された音楽の中に敬虔な宗教心と静かな感情がほどよく調和した彼のオルガン作品を聴くと、ドイツの音楽家よりもスウェーデンのルーマンやデンマークの − かなり後の時代になりますが − JPE・ハートマンたちとの近似性のほうを強く感じることがあります。

 今年 Alba からリリースされた、前奏曲やカンツォネッタなどを収めたブクステフーデ・オルガン作品集 (ABCD123) は、そのことを特にはっきりと感じさせるアルバムだと言っていいように思います。フィンランドの若いオルガニスト、ホーカン・ヴィークマン Håkan Wikman (1963-) がヴァンター市(フィンランド)のミュールマキ教会のオルガンを弾いた録音です。

 ヴィークマンはシベリウス音楽院を卒業した後、アムステルダムのスヴェーリンク音楽院でジャック・ファン・オールトメルセンのもとで学び、現在はこのアルバムの録音が行われたミュールマキ教会のオルガニストを務めるとともに、シベリウス音楽院でも教鞭をとっています。  オルガンという楽器は、最も大きなプリンシパル以下、トランペット、フルート、オーボエなどオーケストラの楽器と同じ名称のついた多種のパイプやストップ (音栓) を初めとする複雑なメカニズムからできあがっています。パイプの数もオルガンによって大きく異なり、数十本のパイプの小型オルガンからトゥルク大聖堂 (フィンランド) のオルガンのように70本以上のパイプを備えた大オルガンまで、実にさまざまです。このオルガンを数多くの管楽器からなるウィンドオーケストラと考えると、オルガニストはそのオーケストラの指揮者とみなすこともできるでしょう。それだけにオルガニストには多大な労力が要求され、単に鍵盤やペダルを上手に操作するだけではリハーサルもせずに指揮台に立つ指揮者と同じようなもので、説得力のある演奏は期待できません。ストップの使い方や組み合わせなど、事前の緻密な設計はどうしても必要になってきます。しかもこれらの機構をどう使うかについては譜面に指定がない場合が多く、曲に対する洞察と感性がオルガニストには要求されます。

 ヴィークマンのブクステフーデ演奏の素晴らしさもそのあたりにあると言えそうです。前奏曲などはパイプを全開にするなどして、その気になればいくらでも迫力のある音を響かせることができるでしょう。しかし、彼は作曲家の微細な感情の動きをたどりながら、ひたすら穏やかな音楽を聞かせてくれます。前奏曲、カンツォネッタ、コラール、そしてフーガさえもが瞑想する音楽として提示されています。多様なスタイルの演奏を受け入れる現代にあっても、自分の感性に忠実な演奏をするヴィークマンの姿勢には特別な清々しさが感じられるような気がします。

 このヴィークマンにはバッハのオルガン作品集の録音もあります (Alba ABCD117)。《前奏曲とフーガ ハ長調》BWV531、《トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調》BWV564、そして《オルガン小曲集》と《25のコラール前奏曲》からの数曲など、全部で8曲が演奏されています。

 個人的なことをひとつ。誰の録音なのか忘れてしまったくらい − おそらくカール・リヒターだったのではないかと思いますが − 昔のことです。《前奏曲とフーガ》(どの曲だったでしょうか)や《トッカータとフーガ ニ短調》を収録したバッハのオルガン曲のLPを聞いて、そのあまりに威圧的な音楽に圧倒され、「この先バッハのオルガン曲を聴くことはないだろう」と思ったことがあります。“オレの言うことを聞け!” 的な音楽が生理的にイヤだったからでしょう (それは今でも変わりませんが)。そのことがあるので、最近このバッハのアルバムを聴く機会に出会った時も、どことなく気乗りがしなかったというのが正直なところです。しかし、《前奏曲 (トッカータ) とフーガ ニ短調 《ドリア旋法》》BWV538 の最初の音を聴いたとたん、たちまちヴィークマンの演奏する音楽に魅せられてしまいました。「前に聴いたバッハは何だったのだろう?」ということが頭に浮かんだのは言うまでもありません。

 録音場所はハンブルクの聖ヤコビ教会。このアルプ・シュニトガー・オルガンは最も長いパイプが32フィートもあるといいますから、ブクステフーデの録音に使われたミュールマキ教会のオルガンにくらべても相当に大きなオルガンです。そのオルガンからきこえてくる静かな響きの演奏からは “バッハの偉大な音楽を伝えねば” という使命感のような様子もうかがえず、“音楽の父” と祭り上げられることのない、ひとりの作曲家としてのバッハの音楽を聴くことができるように思います。

 ちなみにヴィークマンは、この2枚のCDにつづいてヘンリク(ヒンリク)・フィリップ・ヨンセン Henrik (Hinrich) Philip Johnsen (1717-1779 ドイツ − スウェーデン) とライディングのオルガン作品集を録音しているので、そちらの演奏も聴いてみたくなりました。

(TT)

 

新譜情報

Marco Polo 8.225105 アードルフ・フレードリク・リンドブラード (1801-1878)
 交響曲第1番ハ長調 作品19 交響曲第2番ニ長調 (1855)
  ウプサラ室内管弦楽団 ジェラール・コーステン (指揮)

Rondo RCD8368  北国の幻影 (Visions from the North)
フランク・ティケリ (1958-) Blue Shades
ダレン・W・ジェンキンズ (1967-)
 アルトサクソフォーンとウィンドアンサンブルのための協奏曲
アツソ・アルミラ (1953-) Visions from the North (北国の幻影)
モーエンス・アンレーセン (1945-) トランペット小協奏曲
ヤコブ・ゲーゼ (1879-1923)
 Funeral Music at the Bier of Gustav Esmann (グスタフ・エスマンの棺に奏でる葬送音楽)
ヴァシーリ・ブラント (1869-1923)
 トランペットとウィンドアンサンブルのための小協奏曲第2番 変ホ長調 作品12
マーティン・オーカヴァル (1965-) Ergesia
  ジャネット・バラン (アルトサクソフォーン) ケティル・クリステンセン (トランペット)
  デンマーク・コンサートバンド ヨーアン・ミッサー・イェンセン (指揮)

 

ワールドミュージックとフォークミュージック

Hurv KRCD24 スウェーデン、オルサ地方のフィドルの調べ

◇ゴッサ・アンデシュ・アンデション、ゴッサ・アンナ・アンデションの夫婦フィドラーによる20世紀初期から中期までの録音


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