Newsletter No.30   18 April 2001

 

新譜情報

Caprice CAP21571 レオポルド・ゴドフスキー (1870-1938) 
 ピアノソナタ ホ短調 《グランド・ソナタ》 (1910-1911) 
 ヨハン・シュトラウスの主題による交響的変容 − 芸術家の生涯
  ベンクト=オーケ・ルンディン (ピアノ)

◇スウェーデンのピアニスト、ベンクト=オーケ・ルンディン Bengt-Åke Lundin (b.1963) による最新録音。ルンディンは、タティアーナ・ニコラエワに師事、ドミートリー・バシュキロフとノエル・フロレスのマスタークラスにも参加した。1989年にストックホルムの王立音楽大学を卒業し、以後ヨーロッパ各地でコンサート活動をつづけている。レコード録音も積極的に行っており、セシリア・シリアクス Cecilia Zilliacs と録音した “スウェーデンのヴァイオリンソナタ” (Phono Suecia PSCD705) はスウェーデン・グラミー賞を受賞した。ペトヤ・スヴェンソン Petja Svensson と共演した2枚のディスク −− “スカンディナヴィア・チェロ”(Caprice CAP21590) とラフマニノフのチェロのための作品集 (Caprice CAP21643) −− も、ヨーロッパを中心に好評とのこと。

 このディスクでルンディンが弾くのは、ポーランド生まれのアメリカの作曲家ゴドフスキー Leopold Godowsky の作品。作曲家としてよりも技巧を誇るピアニストとして演奏史上に名が残っており、録音も現存する。解説によると、録音スタジオやコンサートホールよりも、内輪の場での演奏で本領を発揮したとのこと。1時間近い演奏時間のソナタはウィーン時代の作品。長大なソナタ形式をもつ第1楽章だけで (ルンディンの演奏では) 22分43秒もかかる。《芸術家の生涯》は、ヨハン・シュトラウスのワルツをパラフレーズした大作の中の1曲。

 いずれの作品も技巧をフルに使うことを意図した作品といわれるが、音楽の実質については、一部の好事家以外からは疑問の声もあがる −− 「複雑さが一人歩きして、まるで意味不明」、「ジャズピアニストがアドリブを楽譜に書いたかのよう」、等々。現代の視点ではアナクロニズムと考えられても当然かもしれない。楽譜を見ただけで “吐き気がする (nauseating)” との率直な意見を言うピアニストがいるのも無理はなさそう。ただ、ソナタについては、作曲者が自分の内面と向き合う、いわば日記のような率直さとでもいうものが、ところどころに感じられなくもない。ルンディンが、あるいは技巧の奥にある何かを読みとろうとした結果なのかもしれない。

 シュトラウスのパラフレーズは、ウィンナワルツやヴィルトゥオージティを好む人たちにとっては楽しいのかもしれないが、個人的には両方とも苦手なのでパス。指がまわるだけのピアニストの生計を助け、そして、そういう音楽を“愛好する”ファンの食欲を満たすためには、まあ…‥。いずれにせよ、アメリカ東海岸の成金の非インテリ層には受けそうな音楽。

 ピアニストにとって苛酷な、そして長大な作品として思い出されるのが、スウェーデンの作曲家クロード・ロヨラ・アルゲーン Claude Loyola Allgén (1920-1990) の《幻想曲 (Fantasia)》。中断なしに演奏され、(マッツ・ペーション Mats Persson の録音 (Alice ALCD029) では) 49分間もかかる大曲。人間の歓びと苦悩をピアノに託して語る、悲惨な生涯を余儀なくされた作曲家の音楽。その美しさが心にしみて、時間の経過も忘れてしまう。そのほかにも、シューベルトの遺作のソナタ (イ長調 (D959) と変ロ長調 (D960)) という、心に残る作品もある。音楽というのは、なんと多様なもの。

Classico CLASSCD271 ペレ・グズモンセン=ホルムグレン (b.1932)/ニコライ・ネアロン (b.1965)
 劇音楽《オデュッセウス》
  ニコライ・ネアロン (ヴォーカル、ギター) ビアギッテ・フリボー (アルト)
  ヤコブ・ヴェーバー (打楽器) トム・ヘイロン (打楽器) ヴォーカルグループ “アルス・ノーヴァ”
  王立デンマーク・ブラス

◇グズモンセン=ホルムグレン Pelle Gudmundsen-Holmgreen は、現代デンマークでももっともユニークな作曲家のひとり。ストラヴィンスキー、バルトーク、ヒンデミットらの影響下のある音楽を書いた後、音列による前衛的な技法を取り入れるが、その後、音列技法から離れ、“ニュー・シンプリシティ” を標榜するようになる。ジャズ、アフリカのリズム、バロック音楽、グレゴリオ聖歌、日常の騒音など、さまざまな要素を取り入れた音楽を書くために、全体像がつかみにくい。それだけに面白味のある作家とも言える。ペーア・ネアゴー Per Nørgård (b.1932) の “二卵性双生児” と見なされることもあり、ネアゴーの音楽を特徴づけるのが “旋律、魂、ヴィジョン” とすれば、グズモンセン=ホルムグレンのほうは“リズム、身体、フォルム”と言われる。シンガーソングライター、ニコライ・ネアロン Nicolaj Nørlund との共作による《オデュッセウス》は、1998年にトルヴァルセン博物館(コペンハーゲン)で上演された劇のために書かれた音楽。
   
Classico CLASSCD298 カール・ニルセン (1865-1931) エディション 第3
 交響曲第4FS76 (作品29) 《消しがたきもの (Det uudslukkelige)
 劇音楽《キューピッドと詩人 (Amor og digteren)FS150 (作品54) 組曲
 風俗画「小姓は高い塔の上で」 (Genrebillede "Pagen højt på tårnet sad") FS14-1
 エアリエルの歌 (Ariels sang) FS80 から わが家のクリスマス (Hjemlige jul) FS108
 交響的ラプソディ (Symfonisk rapsodi) FS7
  ヤン・ロン (テノール) 王立リヴァプール・フィルハーモニック管弦楽団 ダグラス・ボストック (指揮)

◇コペンハーゲンの王立図書館を中心に、デンマークが政府を挙げて刊行中の新しいカール・ニルセン全集 (カール・ニルセン・エディション) に基づく録音。ミケール・シェーンヴァント Michael Schønwandt (1953-) による交響曲全6曲の録音はすでに完結 (dacapo 8.224126, 8.224156, 8.224169)。エディションとともに手稿譜もチェックした上での演奏は、これまでのニルセンの演奏とはかなり印象が異なり、なにかと話題になった。シェーンヴァントの元、さわやかな響きを聴かせるデンマーク国立放送交響楽団の演奏に対して好意的な意見が多い。

 同じ新エディションに基づくボストック Douglas Bostock (b.1955) による録音は、現在も進行中。交響曲は、第2番と第5番 (CLASSCD296) と第3(CLASSCD297) がすでにリリースされている。演奏の内容だけでなく、ボストックのシリーズがユニークなのは、交響曲だけでなく、作曲者自身が伴奏部のオーケストレーションを行った版による歌曲の演奏など、初録音の作品が聴けること。第3集では、第3番のディスクに第3曲が収録されていた《ヤコブセンの歌と詩》の第1曲《風俗画 (Genrebillede)》 (今回もヤン・ロン Jan Lund が独唱)、序曲が有名な劇音楽《キューピッドと詩人 (Amor og Digteren)》を組曲として聴くことができる。《エーリエルの歌 (Ariels Sang)》 −− 1916年、シェークスピア没後300周年記念に上演された、ヘルエ・ローゼ Helge Rode (1870-1937) の台本による劇のために作曲 −− と《クリスマスの歌 (Julesang)》 (ヨハネス・ヴィーベア Johannes Wiberg の詩に作曲した1923年の作品?) も、管弦楽伴奏による録音としては初めてのはず。

Classico CLASSCD356 ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン (1770-1827) ピアノソナタ集第6
 ピアノソナタ第6番 ヘ長調 作品10-2 ピアノソナタ第16番 ト長調 作品31-1
 ピアノソナタ第23番 ヘ短調 作品57 《アパッショナータ》
  アネ・エラン (ピアノ)

◇アネ・エラン Anne Øland (b.1949) は、現代デンマークを代表するピアニストのひとり。王立デンマーク音楽院でヘアマン・D・コペル Herman D. Koppel (1908-1998) のもとで学んだ後、イタリアとオーストリアに留学。グイド・アゴスティ、ハンス・レイグラーフ、ニキータ・マガロフに師事した。1977年、コペンハーゲンでコンサートピアニストとしてデビュー。同年、デンマーク音楽批評家芸術家賞を受賞。その後も1995年のカール・ニルセン/アネ・マリ・カール=ニルセン賞など、多くの賞や奨学金を受ける。1978年には、スウェーデンで行われた北欧ピアノ・コンペティションで優勝。1981年のロンドンのウィグモアホールでのコンサートも高く評価された。1980年からは王立デンマーク音楽院の助教授。そのかたわら、ソロイスト (デンマーク国立放送交響楽団をはじめとするデンマークの主要なオーケストラとも共演)、室内楽奏者として欧米各地で活躍する。

 録音活動も活発に行っており、カール・ニルセンのピアノ作品全集 (Classico CLASSCD205-6) と、進行中のベートーヴェンのソナタ全曲録音が代表作。前作 (CLASSCD326) に収録された3曲の (第3番 ハ長調 作品2-3、第9番 ホ長調 作品14-1、第18番 変ホ長調 作品31-3) では、強弱やテンポの変化など、自由にメリハリをつけながらも形を崩さない演奏になっているのが面白い。ムードでごまかさない、率直な音楽づくり。個人的に愛着のある作品31-3の軽やかな演奏には、思わずニコリとさせられた。今回のディスク、ト長調は想像できるとしても、 《アパッショナータ》 ではどんな演奏をしているのだろう。“楽聖ベートーヴェン” の崇拝者には敬遠される演奏になっているはずなので、楽しみ。
  
Classico CLASSCD370 PE・ランゲ=ミュラー (1850-1926)
 交響曲第1番 ニ短調 作品17 《秋 (Efterår)》 交響曲第2番 ニ短調 作品33
  ボヘミア室内管弦楽団 ダグラス・ボストック (指揮)

◇予期せぬ作品の録音が登場した。ペーター・エラスムス・ランゲ=ミュラー Peter Erasmus Lange-Müller は、ニルス・ゲーゼ Niels W. Gade (1817-1890)、ペーター・アーノル・ハイセ Peter Arnold Heise (1830-1879)JPE・ハートマン J. P. E. Hartmann (1805-1900) らにつづく世代のデンマークのロマンティック音楽の代表的作曲家のひとり。15年後には、デンマーク音楽の改革者カール・ニルセン Carl Nielsen (1865-1931) が誕生。ロマンティックな作風の作曲家にとっては、微妙な時代に生まれてしまったと言える。経済的に恵まれていたこともあり、1890年代の初頭にはコペンハーゲンから北部シェランに移り住み、ほとんど作曲活動からは身を引いてしまう。“後ろを向いた” 自分の音楽のスタイルと新しい世紀の音楽とのギャップを知ったことが理由だと言われている。

 ランゲ=ミュラーは、オペラ作家を志したといわれるが、失敗。喜劇《昔むかし (Der var engang)》のために書いた音楽 (dacapo 8.224084) だけは成功をおさめ、現在に至るまで演奏されている。しかし、ランゲ=ミュラーの名を有名にしたのは、一般的には一連の歌曲だと考えられている。最近では、歌曲だけでなく、室内楽のための作品やピアノ曲、あるいは合唱曲も録音や演奏の機会が増えてきた。メランコリックなロマンティシズムに特色のあるランゲ=ミュラーの音楽。交響曲は、いったいどんな音楽になっているのだろう。もしかして、彼とひとつ違いで、同じ年に亡くなったヴィクトー・ベンディクス Victor Bendix (1851-1926) の第3番の交響曲(イ短調)に聴かれるロマンティシズムを更にほの暗くしたような音楽なのだろうか。聴いてみたい。

Naxos 8.554543 ディズリク・ブクステフーデ (c.1637-1707) オルガン作品集 第1
 第1旋法のマニフィカト BuxWV203 神のひとり子なる主キリスト BuxWV191
 前奏曲とフーガ ト長調 BuxWV147 第9旋法のマニフィカト BuxWV205
 神のひとり子なる主キリスト BuxWV192 前奏曲とフーガ ニ長調 BuxWV139
 ああ主よ、あわれなる罪人のわれを罰したもうな BuxWV178
 われら汝に感謝す、主イエス・キリストよ BuxWV224 イエス・キリスト、われらの救い主 BuxWV198
 前奏曲とフーガ イ短調 BuxWV152 父なる神よ、われらとともにあらせたまえ BuxWV190
 前奏曲とフーガ ト短調 BuxWV149
  フォルカー・エレンベルガー (オルガン)

◇ブクステフーデ Diderich Buxtehude は、バロック時代のデンマークが生んだ最大の作曲家。デンマーク、スウェーデンと活動の場を広げ、その後40年間リューベック(ドイツ)のマリア大聖堂のオルガニストの地位にあったために、ドイツの作曲家と誤解されることが多い。しかし、ブクステフーデ自身、デンマーク人だということに誇りを持っていたといわれ、また、彼のオルガンやハープシコードのための音楽には、ドイツ人が書いた作品のような窮屈さが感じられない。ブクステフーデに教えを請うために、J・S・バッハがリューベックまで旅したのは有名な話。

 ブクステフーデのオルガン作品には、デンマークのオルガニストによる全集 −− インゲ・ベネロプ Inge Bønnerup (b.1940) (Danacord DACOCD381-386)、ウルリク・スパング=ハンセン Ulrik Spang-Hanssen (b.1953) (Paula PACD68-73) −− や、フィンランド人ホーカン・ヴィークマン Håkan Wikman (b.1963) による選集 (Alba ABCD123) など、北欧の演奏家の優れた演奏の録音がある。Naxos の新シリーズの演奏をするエレンベルガー Volker Ellenberger は、ドイツのオルガニスト。楽器は、1997年製作のビュッケブルクの福音ルター教会のオルガンが使われている。

Phono Suecia PSCD128 オーボエ・コン・フォルツァ (Oboe con forza)
ダニエル・ベルツ (1943-) オーボエ協奏曲 (1987)
 キタイロン (Kithairon) (1991) (オーボエ独奏のための)
ラーシュ・エークストレム (1956-)
 オーボエと室内管弦楽団のための協奏曲 《Fragile Chain (もろい鎖)》 (1983/1999)
 加速する氷片 (Den accelererande isbiten) (1988) (オーボエ独奏のための)
ヨーラン・ガムストープ (1957-)
 パルス第2番 《始まりの終わりに (Vid börjans slut)(1993) (オーボエ独奏のための)
 オーボエ協奏曲《Pulselife (パルス・ライフ)》 (1991)
  ヘレーン・ヤーレン (オーボエ) ヘルシングボリ交響楽団 アルヴォ・ヴォルメル (指揮)
  カンマルアンサンブルN ミカエル・バートシュ (指揮)

◇スウェーデンを代表する演奏家により現代スウェーデンの作品を紹介するシリーズの最新作。3人の作曲家によるオーボエ協奏曲とオーボエ独奏のための曲が交互に収録されている。

 ダニエル・ベルツ Daniel Börtz は、2作の優れたオペラ《バッコスの巫女たち (Backanterna)》 (イングマル・ベルイマン Ingmar Bergman の演出により1991年に初演 (Caprice CAP22028) ) と《マリー・アントワネット (Marie Antoinette)》 (1998年初演 (Caprice CAP22047)) が特に有名。現代スウェーデンでもっとも売れっ子の作曲家のひとり。ヨン・フェーンストレム John Fernström (1897-1961) とヒルディング・ルーセンベリ Hilding Rosenberg (1892-1985) のもとで作曲を学んだ。ストックホルム王立音楽大学に進学してからは、カール=ビリエル・ブルムダール Karl-Birger Blomdahl (1916-1968) とイングヴァル・リードホルム Ingvar Lidholm (b.1921) に師事。室内楽、器楽曲、(10曲を越す) 交響曲など、得意とするジャンルも多彩。協奏曲もかなりの数を作曲しており、彼の作品リストの中でも重要な位置を占める。最近の作品では、独奏楽器の技巧的なフレーズと音楽表現とが古典協奏曲の場合のようなバランスを保っているといわれるが、1987年に作曲されたこのオーボエ協奏曲では、複雑な技巧を試される独奏楽器とオーケストラが光と影を交差させる音楽が、スリリングで面白い。《キタイロン (Kithairon)》は、ギリシア神話からインスピレーションを得たとされる幻想曲。タイトルは、酒神ディオニュソスが住む山の名前。幅広い音程の跳躍と揺れ動くテンポ。オーボエの音色をうまく使い、オペラのアリアのように陶酔的な音楽を提示する。

 ラーシュ・エークストレム Lars Ekström もストックホルム王立音楽大学の卒業。在籍したまま海外にも留学し、シエナのキジャーナ音楽アカデミー、聖チェチーリア音楽院 (ローマ)、パリの音楽院などで作曲の勉強をつづける。ロック・ミュージシャンやスタジオ・ミュージシャンとしても活躍する変わり種。いろいろなジャンルの曲をてがけるが、管弦楽作品が中心。《もろい鎖 (Fragile Chain)》 という副題をもつオーボエと室内管弦楽団のための協奏曲は、協奏曲というよりも独奏楽器をもつ室内アンサンブル作品。独奏弦楽グループ、4つの木管楽器、3つの金管楽器、そしてハープとピアノという編成。構成の複雑な音楽のようだが、明るく、透明な響きが印象的 (いつものことながら、カンマルアンサンブルN の演奏が素晴らしい)。副題は、独奏パートとアンサンブル部分の関係が緊密でないことを意味するのだろうか。独奏曲も、《加速する氷片 (Den accelererande isbiten)》という困惑させるようなタイトルがつけられている。解説には、「いいワインの中に氷のかけらを入れると、さわやかな効果が!」とある。7分24秒。変化に富んでいて、飽きさせない音楽。

 ヨーラン・ガムストープ Göran Gamstorp のストックホルム王立音楽大学での作曲法の師は、スヴェン=ダーヴィド・サンドストレムとペール・リンドグレン Pär Lindgren (b.1952)。1984年夏には、シエナでフランコ・ドナトーニ Franco Donatoni のワークショップにも参加した。《パルス第2番 《始まりの終わりに》 (Puls II: vid börjans slut)》 は、8曲書かれた《パルス》シリーズの1曲 (2000年現在)。やや激しい “鼓動 (パルス)” を聴かせる第1部分と、作曲者が “ドルチェ・エ・トランスパランテ (柔らかく、透明感を出して)” と指定した第2部分の対比が面白い (演奏者は大変)。ガムストープは、協奏曲のサブタイトルでも “パルス” にこだわりを見せる。独奏楽器とオーケストラが対峙して生み出す響きに、ただただ身を任せたい。

 ソロイストのヘレーン・ヤーレン Helén Jahren は、モーツァルトの協奏曲などを集めたディスクを Caprice からリリースしたばかりのスウェーデンの奏者。ハインツ・ホリガーの弟子。鋭い響きを聴かせることを避けるオーボエの音色が、それぞれの作品にふさわしく、魅力的。

Phono Suecia PSCD139 スヴェン=ダーヴィド・サンドストレム (1942-) 混声合唱作品集
 おお主よ、わたしの祈りを聞いてください (Hear My Prayer, O Lord) (1986)
  (ヘンリー・パーセルの未完の曲の補筆完成)
 四月と沈黙 (April and Silence) (1996)
 エチュード第4番、ホ短調のように (Etyd Nr 4 som i E-moll) (1987) [PSCD44]
 揺りかごの歌 − 虎 (A Cradle Song - The Tyger) (1978)
 新しい天と新しい地 (A New Heaven and A New Earth) (1980) Agnus Dei (神の子羊) (1980)
  エーリク・エーリクソン室内合唱団 エーリク・エーリクソン (指揮)

◇スヴェン=ダーヴィド・サンドストレム Sven-David Sandström は、スウェーデンだけではなく現代スカンディナヴィア文化を代表する作曲家と言われる。多作で知られ、管弦楽曲、映画のための音楽、オペラ、合唱と管弦楽による大規模な宗教作品 −− 《レクイエム (Requiem)(Caprice CAP22027) や《大ミサ曲 (The High Mass)(Caprice CAP22036) −− から小編成の室内楽曲や合唱曲まで、広いジャンルの作品を手がける。(比較的おとなしい)前衛的な曲も書けば、ネオロマンティシズムに徹した作品までと、作風も変化に富んでおり、全体像が掴みにくい作家のひとり(“あの” ピアノ協奏曲 (1990) については、ノーコメント)。約10年間に渡りストックホルムの王立音楽大学で教えた後、現在はアメリカのインディアナ大学 (ブルーミントン) 音楽学校の作曲科教授の地位にある。

 エーリク・エーリクソン室内合唱団による演奏を収めたこのディスクでは、スヴェン=ダーヴィドの代表作とされる合唱曲を聴くことができる。《わが祈りを聞きたまえ、おお主よ (Hear my Prayer, O Lord)》は、詩篇第102番をテクストにした、ヘンリー・パーセル Henry Purcell (c.1659-1695) の未完の8声のアンセムを補筆完成させた作品。「詩篇の主への祈りの叫びが、当惑し打ちひしがれたため息とすすり泣きにかわり、最後に、調和しながらも消耗しきった長調の和音に落ち着く」 というカミラ・ルンドベリ Camilla Lundberg の言葉が、この曲の不思議な魅力を語る。トゥーマス・トランストロメル Tomas Tranströmer の詩による《四月と沈黙 (April och tystnad)》−− 暗い色調が逆説的で、“油絵ではなく、水彩画” として描かれた春の詩 (ルンドベリ) −− とトビアス・ベリグレン Tobias Berggren の後期ロマン派的なエロティックな音楽。ともにテクストの語感が活かされた作品に仕上がっている。スヴェン=ダーヴィドは、意欲的なアマチュアコーラスとして有名なヘーゲルステン・モテット合唱団にテノールとして参加したことがあるという。その経験が合唱というものに対する造詣の深さとなって実を結んだということは、充分に考えられるところ。

 このディスクでもっとも興味深いのは、イギリスの詩人のウィリアム・ブレイク William Blake (1757-1827) の詩に作曲した《ゆりかごの歌 − 虎 (A Cradle Song - The Tyger)》。「甘い夢よ、影をつくれ、わが愛しき幼子の頭の上に、心地よき小川の甘い夢を、幸せな、物言わぬ月の光によりて」 の一節から始まる 『ゆりかごの歌 (A Cradle Song)』。「虎よ、虎よ、燃える輝き。夜の森で、いかなる不死の手、不死の目が、なんじの恐ろしき調和を形づくったのか?」 という、神秘主義者と呼ばれることがうなづける 『虎 (The Tyger)』。詩集「無垢と経験の歌 (Songs of Innocence and of Experience)」から選ばれた、極めて趣向の異なる2つの詩がひとつの作品として提示される。無邪気な子守歌と凶暴な虎の対比の妙。子守歌では、ロマンティックな音楽と “夾雑物” のような音を平行させることにより、詩人の空想を具現化しようとするかのよう。詩と音楽に親しむことにより、尽きせぬ魅力にとりつかれそう。歌詞は英語の原詩。

 《新しい天と新しい地 (A New Heaven and a New Earth)》のテクストは、新約聖書の『ヨハネの黙示録』(第21章 第1節 − 第5節のa) −− 「わたしはまた、新しい天と新しい地を見た。最初の天と最初の地は去って行き、もはや海もなくなった。更にわたしは、聖なる都、新しいエルサレムが、夫のために着飾った花嫁のように用意を調えて、神のもとを離れ、天から下ってくるのを見た……玉座に座っておられる方が、『見よ、わたしは万物を新しくする』と言い」 (新共同訳)。宗教的法悦とでも呼べる物語が変化に富んだフレーズの運びにより語られる。興味があるのは、最後の部分の音楽。それまでの美しい音色が一変して不透明な響きに。そして、宙に浮いたままであるかのように音楽は終わる。宗教の存在と意義が希薄になった現代における自分自身の宗教観の表明? ポール・ブリテン・オーステン Paul Britten Austen による英語版の歌詞で歌われている。

 PSCD44 に収録された1989年録音の《エチュード第4番、ホ短調のように (Etyd nr.4, som i E-moll)》以外は、1992年11月から2000年5月にかけての新録音。

Swedish Society Discofil SCD1102 アルヴェーン・エディション 第2集
ヒゥーゴ・アルヴェーン (1872-1960)
 交響曲第2番 ニ長調 作品11 (1897-98)
  ストックホルム・フィルハーモニック管弦楽団 ライフ・セーゲルスタム (指揮) [SCD1005]
 スウェーデン・ラプソディ第2番《ウプサラ・ラプソディ》 作品24 (1907)
  ベルリン交響楽団 スティーグ・リューブラント (指揮)  [SCD1036]

◇アルヴェーン Hugo Alfvén の名は知らなくても、《夏至祭の夜明かし (Midsommarvaka)》 (スウェーデン・ラプソディ第1番 作品19) は聞いたことがある。そのくらい、この曲は演奏される機会が多い。数あるスウェーデン音楽の傑作のなかでも、もっとも親しまれている曲。

 Swedish Society Discofil の “アルヴェーン・エディション” 第2集に収録されたアルヴェーンの第2番の交響曲は、1897年から1898年にかけての作曲。管弦楽のコンサートの開催がまだ珍しかったストックホルムで初演され、作曲者自身が “輝かしい勝利” と呼ぶほどの成功を収めた。王立オペラのオーケストラを、指揮者としても高名だったヴィルヘルム・ステーンハンマル Wilhelm Stenhammar (1871-1927) が指揮した (1899年5月2日、アルヴェーン27歳の誕生日の翌日)。1897年に初演された第1番も、想像力豊かな音楽が認められ “好意的に” 受け止められはしたものの、1903年から翌年にかけてオーケストレーションの改訂をおこなっており、最初から完全に満足できる仕上がりではなかったと考えられる。その点、第2番の成功がもたらした自分の音楽に対する確信が、1903年の《夏至祭の夜明かし》へとつながっていき、アルヴェーンの名が広く知れ渡ることになる。そのことからも、第2番の交響曲は、アルヴェーンの記念碑的作品と呼ばれることが多い。

 この曲について、ヤン・オーロフ・ルデーン Jan Olof Rudén (b.1937) (音楽学者、スウェーデン音楽情報センターのライブラリアン) は、「ベルリオーズの《幻想交響曲》とやや共通した点が見受けられる」 という、興味ある意見を述べている。「ともに4幕の音楽によるドラマと考えられ、“死” を暗示する旋律をもつ終楽章で音楽が頂点に達する。ベルリオーズは《ディエス・イレ (怒りの日)》、そしてアルヴェーンのほうはドイツの昔のコラールの旋律」 (ベルリオーズの曲は、5楽章仕立てだが、物語そのものは4つの部分で構成される、とルデーンは考えていると思われる)。こう言ったうえでルデーンは、アルヴェーンの伝記を書いたスヴェン・E・スヴェンソン Sven E. Svenson による各楽章のとらえ方も紹介している −− “青春の輝かしい希望” (第1楽章)、“人生の真剣さ” (第2楽章)、“熱病のように快楽の渦に身を任せることによって、悲劇的な経験の傷跡を癒そうとする、運命に翻弄された若者の努力” (第3楽章)、“生と死の最後の闘争” (第4楽章)。

 この見方は、ある意味でマーラーの第1番の交響曲を思わせるかもしれない −− ボヘミアの陰鬱な森から生まれた、屈折したロマン主義の音楽。しかし、アルヴェーンの音楽 −− 少なくとも最初の3つの楽章 −− にインスピレーションを与えたのは、彼が愛したストックホルム群島 (アーキペラーゴ) の自然だと言われる。終楽章冒頭の音楽について、フランク・ヘードマン Frank Hedman は、「アルヴェーンが書いた、もっとも美しい、心からの音楽」 と言っている。そして、「牧歌と“疾風怒濤”の交響曲」 (JO・ルデーン)。音楽の奥行きという点から考えると、アルヴェーンの交響曲の最高作と呼ばれても当然かもしれない。

 組み合わせは、《ウプサラ・ラプソディ (Uppsalarapsodi)》 の副題をもつスウェーデン・ラプソディ第2番。植物学者カール・フォン・リンネ Carl von Linné の生誕200年記念の祝賀に際してウプサラ大学から委嘱された。大学側は祝典カンタータのような作品を希望したが、テクストが間に合わず、作曲のための日数も限られていたために、アルヴェーンが従前からあたためていた、ブラームスの《大学祝典序曲》に似た作品を書くことで妥協せざるを得なかったらしい。ブラームスの作品と同様、学生たちの愛唱歌を基にしたポプリ。オープニング曲は、アルヴェーンが指揮者を務めた OD (オルフェイ・ドレンガル) のレパートリーの1曲でもあり、男声合唱グループの愛好曲、グスタフ王子 Prins Gustav (1827-1852) の《行進曲 「学生の幸せな日を歌え」 (Marsch "Sjung om studentens lyckliga dag")》。そのあとは、リンドブラード、ヴェンネルベリ、ベルマンらの作品が次から次へと現れる。大学を中心に発展した都市ウプサラに似つかわしい、気楽で楽しい音楽。

 2曲ともオリジナル音源から新しくリマスターされた。1972年5月16日−18日 (交響曲) と1968年8月31日 (ラプソディ) の録音。

 

新譜情報 − Jazz

Caprice CAP21669 ボッセ・ブルーベリ & ノージェンジャ − Conspiracy in Flat Five
 Donna Lee (in flat 5) Warm Valley Mountain Bridges Django (ジャンゴ) When I fall in love
 Cubano Chant Blood Count Mister Trickster Hej Bej
  ジャズ・ソロイストアンサンブル “ノージェンジャ” ボッセ・ブルーベリ (トランペット、リーダー)

◇“ノージェンジャ Nogenja” は、スウェーデン・ジャズを代表するトランペット奏者、作曲家、編曲家、ボッセ・ブルーベリ Bosse Broberg がスウェーデン・ジャズ界のエリート演奏者の中から選んだメンバーによるジャズ・ソロイストアンサンブル。 "non generation jazz" (世代を問わないジャズ) を短縮したグループ名が示すとおり、さまざまな世代のプレーヤーが時代を超えた曲を演奏する。"Regni" (Phono Suecia PSCD93) などにつづくこの3枚目のアルバムにも、ジャズのスタンダードナンバーが収録されている −− マイルス・デイヴィスの〈ドナ・リー〉、デューク・エリントンの〈ウォーム・バレー〉、ビリー・ストレイホーンの〈ブラッド・カウント〉など。とりわけ嬉しいのが、さきごろ逝去が報じられた MJQ のジョン・ルイスのエヴァーグリーン、ジャンゴ・ラインハルトの思い出に捧げた〈ジャンゴ〉。参加メンバーの中には、Opus3 の素敵なピアノトリオ・アルバム "Treecircle" (CD19801) で透きとおった美しさのピアノを聴かせる、ヨースタ・ルンドクヴィスト Gösta Rundqvist の名前も見られる。イェルケル・リンドストレムのディスク (Caprice CAP21654) とともに、スウェーデンで健在のビッグバンドジャズを楽しませてくれるアルバ


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