Newsletter No.47   15 September 2002

 

フィンランド室内楽の1世紀 − クフモ室内楽フェスティヴァルから

 ヘルシンキの北、約600キロのカレリア地方のクフモは人口11,000人の都市です。ところが、室内楽のフェスティヴァルが行われる毎夏、クフモには人口の5倍近くの人々が訪れてきます。チョロ奏者のセッポ・キマネン Seppo Kimanen (b.1949) (ヴァイオリニスト、新井淑子さんの夫君) がフェスティヴァルを始めた1970年に集まった人は800人。それが1999年には49,000人という記録的な数字になり、クフモ室内楽フェスティヴァルが、フィンランドだけでなく世界中の室内楽愛好家や演奏家たちに愛されてきたことがわかります。

 この音楽祭には、すでに名前のある演奏家だけでなく、これからが期待される若手ミュージシャンも参加します。広島交響楽団のバスーン奏者、徳久英樹さんも友人たちと一緒にこのフェスティヴァルに参加したことがあります。そして、木管楽器のアンサンブルとクフモの川でのルアー釣りを楽しんだという話を何度となく聞かされました。“またクフモに行きたい!”。そういう願いがあるところをみると、フィンランドの夏の自然にひたりながらのこのフェスティヴァルは音楽家たちにとっては特別なものに違いありません。

 それはそうでしょう。音楽祭の期間中、クフモの街全体は朝から晩まで “極上の” 音楽に包まれます。1993年に建てられた、音響が素晴らしいといわれるクフモホール (Kuhmo-talo/Kuhmo Arts Centre)、市内にある木造の教会、そして、コンティオ・スクールのホール。世界に名だたる演奏家たちがこれらの会場に集い、そこで自分たちの演奏を聴衆とともに楽しむ。音楽を心から愛する人たちが分かち合う歓び。そこに、クフモ室内楽フェスティヴァルが愛されてきた、もっとも大きな理由があるはずです。

 室内楽の音楽祭がなぜ夏に開催されるかについては、音楽家たちが夏期休暇をかねて参加できるということが大きいでしょう。同時に、冬場のフィンランドではオーケストラの演奏会が多く、室内楽は人気の点でどうしても押されてしまうという事情もあるようです。

 この音楽祭を人気のあるものにしているもうひとつの理由は、この音楽祭では、各国の作品とともに、フィンランド音楽を代表する室内楽作品の数々を楽しめることです。

 フィンランドでは、ここ数世紀にわたって、たくさんの作曲家たちが室内楽作品を書いてきました。最初の隆盛期は18世紀の終わりから19世紀にかけて。エーリク・トゥリンドベリ Erik Tulindberg(1761-1814)、トマス・ビューストレム Thomas Byström (1772-1839)、ベルンハード・ヘンリク・クルーセル Bernhard Henrik Crusell (1775-1838)、カール・ルードヴィーグ・リタンデル Carl Ludvig Lithander (1773-1843) らが、ウィーン古典主義の影響を受けた作品を書いた時期です。手稿譜が失われた第2ヴァイオリンのパートが作曲家のカレヴィ・アホ Kalevi Aho (b.1949) により復元 (作曲?) された、トゥリンドベリの6曲の弦楽四重奏曲 (Kerava Quartet MACD01&02)、ビューストレムの3曲のヴァイオリンソナタ、クルーセルの3曲のクラリネット四重奏曲。様式的にはハイドンらの面影がありながら、独創性が感じられるこれらの作品は、いずれも捨てがたい魅力をもった音楽です。

 その後、フィンランド国歌を作曲したパーシウス Fredrik Pacius (1809-1891) (弦楽四重奏曲第2番)、シベリウスの交響曲を最初にレコード録音した指揮者で作曲家のカヤヌス Robert Kajanus (1856-1933) (ヴァイオリンソナタ)、ロマンティシズム作曲家エルンスト・ミエルク Ernst Mielck (1877-1899) (弦楽四重奏曲 ト短調、弦楽五重奏曲 ヘ長調) といった人たちが作品を書いたものの、フィンランドの室内楽が再び活発になったのは、19世紀も終わろうかという時期になってからのことです。

 その最初が、シベリウス Jean Sibelius (1865-1957) が学生時代に数多く書いた曲です。変ホ長調 (1885)、イ短調 (1889)、変ロ長調 作品4 (1889-90) の3曲の弦楽四重奏曲、《ロヴィサ・トリオ (Lovisa Trio)》と呼ばれるピアノ三重奏曲 ハ長調 (1888)、ヴァイオリンとピアノのための組曲 ホ長調 (c.1888) など、瑞々しい魅力をもった曲の数々。しかし、交響詩 《クッレルヴォ》 (1891-92) で成功したシベリウスは、それからは、ヴァイオリンとピアノのための曲を中心に、かなりの数の二重奏曲を書いていながら、大作と呼べる作品は弦楽四重奏曲 ニ短調 《内なる声 (Voces Intimae)》だけです。

 そのことは残念ですが、見方をかえれば、シベリウスが室内楽から遠ざかったことで、彼と同時代、あるいは彼のあとをつぐフィンランドの作曲家たちは、室内楽というジャンルで、自由に自分たちの道をさぐることができたと考えることもできます。エルッキ・メラルティン、トイヴォ・クーラ、ヴァイノ・ライティオ、アーレ・メリカント……そして、20世紀の作曲家たち。クフモの夏の音楽祭で人々が楽しむのは、そういった作曲家たちの書いた室内楽の数々です。

 Ondine の新しいアルバム、“クフモ音楽祭ライヴ − フィンランド室内楽の1世紀 (Live from the Kuhmo Festival - A Century of Finnish Chamber Music)”は、1999年と2001年の音楽祭のライヴ録音から、フィンランド音楽を代表すると考えられる室内楽作品といくつかの声楽曲を選んで紹介するもの。Ondine は、オーナーのレイヨ・キールネンさん Reijo Kiilunen がクフモのフェスティヴァルに関わるようになったことがきっかけで誕生しただけに、“満を持して” の企画です。

 たしかに、選ばれた作品はどれも、フィンランド音楽を代表するふさわしく、それぞれに、輝きがあります。クーラ Toivo Kuula (1883-1918) の代表作のひとつ、魅力的なピアノ三重奏曲はこれまでに2種類の録音がありました。新しい録音では、ラハティ交響楽団のコンサートマスター、ヤーコ・クーシスト Jaakko Kuusisto (b.1974) がヴァイオリンを弾いています。メラルティン Erkki Melartin (1875-1937) の弦楽三重奏曲は、交響曲や管弦楽曲で知った彼のイメージが変わってしまうくらい、和声に新しさがあります。キールネンさんのメールに「非常に魅力的な作品!」と書いてあったのも当然でしょう。そして、アーレ・メリカント Aarre Merikanto (1893-1958) の 《ショット協奏曲 (Schott-konsertto)》。豊かな和声をもち、復調や無調の世界と自由に行き来する、モダニストとしてのアーレの代表作のひとつといわれる曲です。クラリネットは以前の録音 (Ondine ODE703-2) と同じエドゥアルト・ブルンナー Eduard Brunner ですが、ホルンが、デイヴィッド・ジョリーからラデク・バボラク Radek Baborák に代わっています。

 エイナル・エングルンド Einar Englund (1916-1999) のヴァイオリンソナタは、サーリケトゥとヴィータサロ (Ondine ODE726-2) につぐ録音。エイナルのお孫さん、マリ・エングルンド Mari Englund のヴァイオリンによる演奏です。彼女は、今年なくなった、エルッキ・サルメンハーラ Erkki Salmenhaara (1941-2002) のもっとも人気のある作品のひとつ、《2つのヴァイオリンのためのソナティナ》 も演奏しています (第1ヴァイオリン)。

 ヨウニ・カイパイネン Jouni Kaipainen (b.1956) (三重奏曲V ) とヴェリ=マッティ・プーマラ Veli-Matti Puumala (b.1965) (弦楽四重奏曲 (1994) ) は、二人ともシベリウス・アカデミーでパーヴォ・ヘイニネン Paavo Heininen (b.1938) のクラスに参加しました (カイパインネンのアカデミーでの最初の師はアウリス・サッリネン)。彼らの、表現力ゆたかな、実質をもった作品を、ヘイニネンの近作、弦楽五重奏曲 (2000) といっしょに聴くと、この師弟関係がフィンランドの音楽にもたらしたものの大きさがわかります (“前衛の急進” と言われるヘイニネン。この弦楽五重奏曲を知って、それでも、ヘイニネンをそう呼んでいいのか? ちょっと考えてしまいます。この曲では、“ロマンティシズムの領域に入り込んだ?” という瞬間さえ感じられます。ヘイニネンの世界が今なお広がりつつあるのは嬉しいことです)。

 こういう企画のおもしろいところは、1枚のディスクにいくつかの作品がおさめられているために、聴き手がそれらをくらべてしまうことです。たとえば、ヘイニネンの五重奏曲のディスクの最後に入っているのはマグヌス・リンドベリ Magnus Lindberg (b.1958) のクラリネット五重奏曲。いつもながらカリ・クリーク Kari Kriikku (b.1960) のクラリネットが冴えていて、音楽も魅力的なのは確かだとしても、なぜか、“色を使いすぎ” といった印象が残りました。考えに考えてアンサンブルの色彩を配合したヘイニネンの後で聴いたので、必要以上にそう感じたということはあるかもしれません。

 作曲家と作品でため息をつき、参加しているミュージシャンの顔ぶれに、また、ため息を。時間さえ許せば、6枚のディスクを一気に聴いてしまいたくなるかもしれません。そして、その後、ゆっくりと1曲ずつ。これはそういったアルバムではないかという気がします。

 

ODE984-2S 6CD's for price of 3  クフモ音楽祭ライヴ − フィンランド室内楽の1世紀
トイヴォ・クーラ (1883-1918) ピアノ三重奏曲 作品7 (1908)
  ヤーコ・クーシスト (ヴァイオリン) ヤン=エーリク・グスタフソン (チェロ)
  パーヴァリ・ユンパネン (ピアノ)
エルッキ・メラルティン (1875 - 1937) 弦楽三重奏曲 作品133
  エヒナトン三重奏団
アーレ・メリカント (1893-1958)
 ヴァイオリン、クラリネット、ホルンと弦楽六重奏のための協奏曲
  《ショット協奏曲 (Schott-konsertto)》(1924)
  ヨン・ストゥールゴールズ (ヴァイオリン) エドゥアルト・ブルンナー (クラリネット)
  ラデク・バボラク (ホルン) シルッカ=リーサ・カーキネン (ヴァイオリン)
  コリンヌ・シャペル (ヴァイオリン) ピエール・レネール (ヴィオラ)
  トンミ・アールト (ヴィオラ) ゲッツ・トイチュ (チェロ) マーティナ・シューカン (チェロ)
ヴァイノ・ライティオ (1891-1945) 六月のある夜 (Juninatt) 作品5-5
 ろうそくの火が揺らぎ (Ljuset flämtar) 作品5-4
 真夜中 (Kuollut hetki) 作品11-3 月明かりの夜 (Kuutamolla) 作品28-1
  ヘレナ・ユントゥネン (ソプラノ) エヴェリーナ・キュトマキ (ピアノ)
エーリク・ベリマン (b.1911) クラリネットのための3つの幻想曲 作品42 (1954)
  アスコ・ヘイスカネン (クラリネット) マリタ・ヴィータサロ (ピアノ)
アーレ・メリカント (1893-1958) 夏の夜 (Kesäyö)
 君は遠くで眠らずにいるのか (Valvotko kaukana siella) 門の梁 (Veräjäpuu) 足音 (Askeleita)
  ソイレ・イソコスキ (ソプラノ) マリタ・ヴィータサロ (ピアノ)
アウリス・サッリネン (b.1935)
 序奏とタンゴ序曲 (Introduction and Tango Overture) 作品74 (1996-9
7) (ピアノと弦楽四重奏版)
  ラウラ・ミッコラ (ピアノ) ジャン・シベリウス四重奏団
エイナル・エングルンド (1916-1999) ヴァイオリンソナタ (1979)
  メリ・エングルンド (ヴァイオリン) ティーナ・カルコルピ (ピアノ)
ヨーナス・コッコネン (1921-1996) 弦楽四重奏曲第3番 (1976)
  ジャン・シベリウス四重奏団
エイノユハニ・ラウタヴァーラ (b.1928)
 歌曲集《Die Liebenden (恋人たち)》(1958-59 arr. 2000) (声と弦楽五重奏のための)
  マークス・ウルマン (テノール) ヨン・ストゥールゴールズ (ヴァイオリン)
  セシリア・シリアクス (ヴァイオリン) ヴラディーミル・メンデルスゾーン (ヴィオラ)
  ヤン=エーリク・グスタフソン (チェロ) ダンカン・マクティアー (ダブルベース)
マッティ・ラウティオ (1922-1986) ディヴェルティメントT (1955)
  ヤン=エーリク・グスタフソン (チェロ) ユハニ・ラーゲルスペツ (ピアノ)
エルッキ・サルメンハーラ (1941-2002) 2つのヴァイオリンのためのソナティナ (1972)
  メリ・エングルンド (ヴァイオリン) アンティ・ティッカネン (ヴァイオリン)
エーロ・ハメーンニエミ (b.1951) クラリネットソナタ (1983-84)
  アスコ・ヘイスカネン (クラリネット) イェリー・ヤントゥネン (ピアノ)
ウスコ・メリライネン (b.1930) フルート − 水の鏡 (Huilu - veden peili) (1984)
  ペトリ・アランコ (フルート) マリタ・ヴィータサロ (ピアノ)
ペール・ヘンリク・ノルドグレン (b.1944) 弦楽五重奏曲 作品110 (2000)
  ピエタリ・インキネン (ヴァイオリン) アンティ・ティッカネン (ヴァイオリン)
  イラリ・アンゲルヴォ (ヴィオラ) マルコ・ユロネン (チェロ) ラモン・ジャッフェ (チェロ)
パーヴォ・ヘイニネン (b.1938) 弦楽五重奏曲 作品78 (2000)
  ダネル四重奏団 ロイ・ルオッティネン (チェロ)
ヨウニ・カイパイネン (b.1956) 三重奏曲V 作品29(1986-87)
  グリフォン三重奏団
マグヌス・リンドベリ (b.1958) クラリネット五重奏曲 (1992)
  カリ・クリーク (クラリネット) アヴァンティ! 四重奏団
キンモ・ハコラ (b.1958) ...la nuit n'est pas (1984)
  ロイ・ルオッティネン (チェロ) イェリー・ヤントゥネン (ピアノ)
カイヤ・サーリアホ (b.1952) Spins and spells (1996)
  ロイ・ルオッティネン (チェロ)
ユッカ・ティエンスー (b.1948) Drang (衝動) (1998)
  イスモ・エスケリネン (ギター)
ユッカ・ティエンスー (b.1948) , mutta (、しかし)(1987) (3つのアコーディオンのための)
  トリオ・フラトレス
ウルヤス・プルッキス (b.1975) ピアノソナタ (1997)
  アンティ・カイホラ (ピアノ)
ヴェリ=マッティ・プーマラ (b.1965) 弦楽四重奏曲 (1994)
  ニュー・ヘルシンキ四重奏団
 

(TT)

新譜情報

BIS CD1169 ジェイムズ・マクミラン (1959-) 作品集
 イゾベル・ゴーディの告白 (The Confession of Isobel Gowdie) (1990)
 トゥレド (Tuireadh) (1991) (クラリネットと弦楽のための)
 リオ・スムプールの悪魔祓い (The Exorcism of Rio Sumpúl) (1990) (室内アンサンブルのための)
  マッティン・フレースト (クラリネット) BBCスコットランド交響楽団 オスモ・ヴァンスカ (指揮)

BIS CD1232 リチャード・ヤードゥミアン (1917-1985) 管弦楽作品集
 ヴァイオリン協奏曲 (1949 rev. 1960/1985)
 交響曲第2番 《詩篇 (Psalms)(1947 rev.1964) (中声と管弦楽のための)
 アルメニア組曲 (Armenian Suite) (1937/1954)
  アレクサンドル・ブーロフ (ヴァイオリン) ナンシー・モールツビー (メッツォソプラノ)
  シンガポール交響楽団 ラン・シュイ (指揮)

BIS CD1257 エドヴァルド・グリーグ (1843-1907) 歌曲集第4集
 パウルセンの5つの詩 作品26
  希望 (Et håb) 心地よい夏の夕べにさまよい (Jeg reiste en deilig sommerkvæld)
  希望にみちて (Den ærgjerrige) はじめての桜草 (Med en primula veris) 森の小道で (På skogstien)
 ヴィンニェの詩による12の歌 作品33
  青春 (Guten) 春 (Våren) 傷つけられしもの (Den Særde) コケモモ (Tyteberet)
  川に沿って (Langs ei Å) まぼろし (Eit Syn) 老いた母 (Gamle Mor) はじめてのもの (Det Første)
  ルンダーネで (Ved Rondane) こわれた友情 (Eit Vennestykke) 誠実 (Trudom)
  たどり着くところ (Fyremål)
 わたしの小さな鳥 (Min lille Fugl) EG126 こけもも (Blåbæret) EG145
 L・M・リンデマンの銀婚式に (Til L.M. Lindemans Sølvbryllup) EG135
 彼女は教会へ歩いて行った (Til Kirken hun vandrer) EG123
 白と赤のばら (Den hvide, røde Rose) EG137 オダリスクの歌 (Odalisken synger) EG131
 ハマルの廃墟にて (På Hamars ruiner) EG140 イェンタ (Jenta) EG141
 総領事クリスチャン・トンスベルグへ (Til Generalkonsul Christian Tønsberg) EG136
  モニカ・グループ (メッツォソプラノ) ロジャー・ヴィニョルズ (ピアノ)

BIS CD1261 JS・バッハ (1685-1750) カンタータ全集 第19
 カンタータ第86番「まことに、まことに、われ汝らに告ぐ」 BWV86
 カンタータ第37番「信じて洗礼を受けし者は」 BWV37
 カンタータ第104番「汝イスラエルの羊飼いよ、聞け」 BWV104
 カンタータ第166番「汝いずくにか行くや」 BWV166
  野々下由香里 (ソプラノ) ロビン・ブレイズ (カウンターテナー) 櫻田亮 (テノール)
  スティーヴン・マクラウド (バス) バッハ・コレギウム・ジャパン 鈴木雅明 (指揮)

BIS CD1276 アントニーン・ドヴォジャーク (1841-1904)
 チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 B191 交響詩《水の魔物》 作品107 B195
 序曲《謝肉祭》 作品72 B169
  トゥールレイフ・テデーエン (チェロ) マレーシア・フィルハーモニック管弦楽団 ケース・バケルス (指揮)

BIS-NL CD5023 ニューヨーク・カウンターポイント (New York counterpoint)
スティーヴ・ライヒ (ライク) (1936-) (オーラフ・ミューレンハルト 編曲)
 ニューヨーク・カウンターポイント (New York counterpoint) (1985) (サクソフォーン・オーケストラのための)
エドヴァルド・グリーグ (1843-1907) (ジョン・C・ワーリー 編曲)
 組曲《ホルベアの時代から (Fra Holbergs Tid)》 作品40
JS・バッハ (1685-1750) (オーラフ・ミューレンハルト 編曲) フーガ ト長調 BWV541
ジャン=ジョルジュ・カスネル (1810-1867) 六重奏曲 (c.1844)
ミヒャエル・デンホフ (1955-) マッチ (Match) 作品90
  ラシェル・サクソフォーンオーケストラ ブルース・ワインバーガー (指揮)

Classico CLASSCD405 トランペットとオルガンのためのデンマーク音楽
ペーター・メラー (1947-1999) ハスレウ祝典ファンファーレ (Haslev Festfanfare)
 オルガンコラール「ごらん、今、太陽がのぼる (Se nu stiger solen)」(1986)
 アレグロ・マエストーゾ (Allegro-maestoso) (1976) (2本のトランペットとオルガンのためのファンファーレ)
トマス・コペル (b.1944) 夜明け (Morgengry) (1992) (オルガン独奏のための)
オーレ・シュミット (b.1928)
 トランペットとオルガンのための組曲
  聖霊 (Helligånden) わが主は小さき者を抱く (Vorherre ta'r de små i favn)
  命は命で償うことを思え (Tænk, at livet koster livet)
イェスパー・マセン (1957-1999)
 4つのオルガンコラール
  これは主がお造りになった日 (Denne er dagen) 私の手足はすべて (Om alle mine lemmer)
  私に千の舌があったら (O havde jeg dog tusind tunger) 立ちあがれ、すべてのものよ (Op al den ting)

ラッセ・トフト・エーリクセン (b.1978)
 おやすみ、いとしい子 (Schlafe mein Liebster) (トランペットとオルガンのための)
カール・オーエ・エリーアソン (b.1950) イントラーダ (Intrada) (トランペットとオルガンのための)
 2つのオルガンコラール
  ぐっすりおやすみ、幼子よ (Sov sødt barnlille)
  主よ、私は罪を犯しました (Herre, jeg har handlet ilde)
トマス・ヴィゴ・ペーザセン (b.1935)
 今だれもが神に感謝する (Nu takker alle Gud) (1963) (トランペットとオルガンのためのコラール・ロンド)
  カスパー・クヌセン (トランペット) オーレ・アナセン (トランペット) インゲ・ベク (オルガン)
  [録音 2001年11月 聖カテリーネ教会 (リーベ)] [制作・録音 ヴィゴ・マンゴ]

◇教会音楽家たちの作品を中心とする、トランペットとオルガンのためのデンマーク作品集。《ハスレウ祝典ファンファーレ》はメラー Peter Møller (1947-1999) が救世主教会 (Vor Frelser Kirke) のオルガニストだった時代の曲。オルガンコラール「ごらん、今、太陽がのぼる」は1986年に作曲され、DOK (デンマーク・オルガニスト・聖歌隊指揮者協会) の1991年新年号に収められた。トマス・コペル Thomas Koppel (b.1944) はヘアマン・D・コペル Herman D. Koppel (1908-1998) の子。王立デンマーク音楽アカデミーでピアノを学び、後にポップス音楽に転向。妻のアニセッテ Anisette をリーダーとするグループ “サヴェッジ・ローズ (Savage Rose)” を結成したが、管弦楽作品、協奏曲、バレエなどの作曲も手がける。 《夜明け》はインゲ・ベクに捧げられた。

 カール・ニルセンの交響曲全集などを録音し、指揮者として知られるオーレ・シュミット Ole Schmidt (b.1928) は、作曲家としても高名。《トランペットとオルガンのための組曲》は、1986年のヨーアン・ゴスタワ・ブラント Jørgen Gustava Brandt の宗教詩集に書いた旋律を基に作曲された。このディスクのふたりのミュージシャンに献呈。イェスパー・マセン Jesper Madsen (1957-1999) は西ユラン音楽院 (エスビェア) で教会音楽を学んだ。師のひとりがペーター・メラー。多くの合唱とオルガンのための曲を作曲した。ラッセ・トフト・エーリクセン Lasse Toft Eriksen (b.1978) は、オーフスの王立音楽アカデミーでカール・オーエ・ラスムセン Karl Aage Rasmussen (b.1947) とベント・セーアンセン Bent Sørensen (b.1958) に作曲を、西ユラン音楽アカデミー (エスビェア) でイェスパー・マセンのもとでオルガンを学んだ。現在、タウロウ教会 (Taulov Kirke) のオルガニスト。合唱指揮者としても活動を行う。

 カール・オーエ・エリーアソン Carl Aage Eliasson (b.1950) も西ユラン音楽アカデミーで教会音楽の学位を取した。救世主教会のオルガニストとカンターなどを歴任。音楽教師としてはハープシコード、通奏低音などを担当。《イントラーダ》と2つのオルガンコラールはいずれも親しみやすい音楽をめざした作品。トマス・ヴィゴ・ペーザセン Thomas Viggo Pedersen (b.1935) は独学の後、王立デンマーク音楽アカデミーでオルガニストと教職の学位を取得した後、コペンハーゲン大学で音楽学を専攻。1967年からはビスペビェア (コペンハーゲン) のグルントヴィ教会 (Grundtvigs Kirke) でオルガニストとカンターの職にある。トランペットとオルガンのためのコラール・ロンド《今だれもが神に感謝する》は友人の結婚式のために作曲された。

 トランペット奏者、カスパー・クヌセン Kasper Kundsen (b.1977) はエスビェアの生まれ。デンマーク国立放送交響楽団の首席奏者、オーレ・アナセン Ole Andersen (b.1942) と西ユラン音楽アカデミー助教授、クリスチャン・ステーンストロプ Kristian Steenstrup に学んだ後、アメリカに渡り、シカゴでバド・ハーセス Adolf "Bud" Herseth とアーノルド・ジェイコブズ Arnold Jacobs に、スウェーデンではホーカン・ハーデンベリエル Håkan Hardenberger (b.1962) に師事した。オーケストラやアンサンブルのゲストプレーヤーとしての活動のほか、スレースヴィのミリタリーバンドの演奏会では数回に渡りソロイストとして出演した。デンマーク各地の教会演奏会にも活発に参加している。金管五重奏団 “ブラス・フレンズ (Brass Friends)” を創設した。

 オルガニストのインゲ・ベク Inge Beck (b.1951) は、オーフス大学で音楽学の、王立音楽アカデミー (オーフス) で教会音楽の学位を取得。ウィーンではラドゥレスクー教授 Michael Radulescu に師事した。1976年から1979年までオーフスのゲレロプ教会 (Gellerup Kirke)、その後、オーフスのグルントヴィ教会 (Grundtvigskirken) のオルガニストと合唱指揮者。エスビェアの三位一体教会 (Treenighedskirken) の合唱団 (少年・男声) などで、レペティトゥール、伴奏者を務める。ペーア・ギュンター Per Günther (b.1933) の《24のコラール幻想曲》(Paula PACD109)、ハンス・マティソン=ハンセン Hans Matthison-Hansen (1807-1890) のオルガン作品集 (Classico CLASSCD330) などをCDに録音している。

Classico CLASSCD409 レアスレウ教会のバロック音楽
ヨハン・クリスチャン・バッハ (1735-1782)
 フルート、オーボエ、ヴァイオリン、チェロとオルガンのための五重奏曲 ニ長調
G・P・テレマン (1681-1767)
 食卓の音楽 (Tafelmusik) 第1集  フルートとオルガン (通奏低音) のためのソナタ ロ短調
  フルート、オーボエ、ヴァイオリン、チェロとオルガン (通奏低音) のための四重奏曲 ト長調
 音楽による礼拝 (Harmonischer Gottes-Dienst) (ソロカンタータ)
  われは神の善きことのみを見る (Ich schaue bloss auf Gottes Güte)
   (バリトン、フルートとオルガンのための)
  主なる創り主の栄光を述べよ (Die Ehre des herrlichen Schöpfers zu melden)
   (バリトン、ヴァイオリンとオルガンのための)
C・P・E・バッハ (1714-1788) バリトンとオルガンのための4つの受難歌 (Passionlieder)
  ランスビュムシカンタネ (村の楽士たち)
   ベント・ラーセン (フルート) ゲアト・ヘアツベア (オーボエ) キアステン・ハルビュ (ヴァイオリン)
   ビアテ・ホルスト・クリステンセン (チェロ) オーエ・クリステンセン (バリトン)
   ヴィゴ・カニング (オルガン)

◇レアスレウ (Reerslev) はコペンハーゲンの近くにある村。この村にある煉瓦造りの教会では、数百年にわたって音楽が演奏されてきた。1847年に賛美歌の伴奏のためにオルガンが設置され、その後、最初は歌だけだった音楽活動も活発になっていったと言われる。この信徒約900人のレアスレウ教区には6人のプロのミュージシャンが住んでおり、大作曲家たちの室内楽曲を演奏するために自然発生的に集まって、彼らが教会でコンサートを開催するようになった。そして自分たちのグループを、“ランスビュムシカンタネ (村の楽士たち) (Landsbymusikanterne)” と呼ぶ。

 オルガンニストのヴィゴ・カニング Viggo Kanding は教区牧師 (sognpræst)、バリトンのオーエ・クリステンセン Aage Christensen はレアスレウ教会の教会歌手 (kirkesanger) を務める。フルーティストのベント・ラーセン Bent Larsen は王立デンマーク音楽アカデミーの卒業。マクサンス・ラリューとジャン=ピエール・ランパルにも師事した。クーラウのフルートソナタ集を録音(Classico CLASSCD318) しており、クーラウ四重奏団 (Kuhlau-kvartet) のメンバーでもある。パレ・ミケルボー Palle Mikkelborg (b.1941) −− NOMUS 賞を受けたことのあるジャズトランペット奏者、作曲家 −− とクインテットを結成したこともあり、デクスター・ゴードンらのジャズ作品を演奏していた (ミケルボーはレアスレウ教会コンサートにも参加している)。

 このディスクはレアスレウ信徒会の援助により制作が実現した。テレマン、JC・バッハ、CPE・バッハら、教会音楽家でもあった作曲家たちの作品が録音されている。現代楽器による演奏。

 このディスクが醸し出す雰囲気こそ、デンマーク語でいう "hygge" (心地よさ) ?

Reerslev Kirke official website

Classico CLASSCD410
カール・マリア・フォン・ヴェーバー (1786-1826) 歌曲と、ギターのための作品集
 私の歌 (Meine Lieder, meine Sänge) J73 彼はあなたに (Er an Sie) J57
 輪舞 (Rreigen) J159
 はじめての松雪草に寄せる乙女の心 (Das Mädchen an das erste Schneeglöckchen) (作品71-3) *
 主題と変奏 (作品3-4) (2本のギターのための) * カンツォネッタ 《Weh! Dass geschieden
 モデラート (作品3-1) (ギターのための) * 愛の炎 (Liebe-Glühen) J140
 逢い引きの時 (Die Schöferstunde) (作品13-1) 月に寄す (An den Mond)
 森を抜けて (Durch die Wälder) (2本のギターのための) (《魔弾の射手》から)
 何がおまえの魔力の圏内に引き入れるのか (Was zieht zu deinem Zauberkreise) J86
 わたしの希望 (Mein Verlangen) J196
 わたしにまどろみを (Lass mich schlummern, Herzlein, schweige) (作品25-3)
 アンダンテ (作品3-2) (2本のギターのための) *  [* 編曲 ヤン・ソマー]
  シーネ・アスムセン (メッツォソプラノ) ヤン・ソマー (ギター) フォルクマー・ツィマーマン (ギター)

◇演奏される機会の少ない、ヴェーバー Carl Maria von Weber (1786-1826) の歌曲をギター伴奏で歌い、それに、ギターのための作品を加えたディスク。旋律線のはっきりした親しみやすい曲は、ジンクシュピール《魔弾の射手》から想像されるとおり。《魔弾の射手》のマックスのアリアを編曲した (編曲者不明)《森を抜けて》の “まるで民謡” という雰囲気がアルバム全体に。くつろぎの時にふさわしい、親近感のあるアルバム。

 シーネ・アスムセン Signe Asmussen (b.1970) は王立デンマーク音楽アカデミーでケル・タラロプ Keld Thararup とボーディル・エラン Bodil Øland のもとで学んだ。2001年11月、コンサートデビュー。バッハ、ヴィヴァルディ、モーツァルト、マーラー、ペルトらの作品がレパートリーの中心。CoCo (コンチェルト・コペンハーゲン)、デンマーク室内プレーヤーズなどとも共演。ヴォーカルグループ “アルス・ノーヴァ (Ars Nova)” とトールキン・アンサンブル (Tolkien Ensemble) のメンバーでもある。北欧の歌手に共通する透明な響きの声、そして、飾り気のない丁寧な歌唱が歌心を感じさせる。ギター奏者のヤン・ソマー Jan Sommer (b.1956) は多くの現代作品を初演。Classico を中心にCD録音を行い、アレンジャー、プロデューサーとしても活躍する。ドイツのギター奏者、フォルクマー・ツィマーマン Volkmar Zimmermann (b.1956) はコロナ・ギター四重奏団 −− ダン・マーモースタイン Dan Marmostein (b.1954) の作品集 “ちょうど夜が明ける前に (Just before the Dawn)(Tutl FKT17) −− の創設者。

Classico CLASSCD413 ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン (1770-1827)
 弦楽四重奏曲 嬰ハ短調 作品131 弦楽四重奏曲 ハ短調 作品18-4
  パイゾ四重奏団
   アナ・セリアノイェヴォ (ヴァイオリン) キアスティーネ・フトロプ (ヴァイオリン)
   マグダ・ステヴェンソン (ヴィオラ) トーケ・メルロプ (チェロ)
   [録音 20023月 ソーアンフリー教会] [制作・録音 モーテン・モーエンセン]

◇北シェランの町、フレゼリクスヴェアク Frederiksværk で開催される音楽祭は、2001年に10周年を迎えた。建築後250年を経た美しいホール、ゲトフース Gjethus で行われるコンサートには、有名無名の音楽家たちが参加。聴衆が演奏家を身近に感じられるよう、トークショー形式のコンサートも行われる。夏のこのイヴェントの楽しみを広く分かち合ってもらうため、参加したミュージシャンによるCDのリリースを企画。2000年の音楽祭からは、オーボエのビョアン・カール・ニルセン Bjrøn Carl Nielsen、ピアノのエリサベト・ヴェステンホルス Elisabeth Westenholz、ヴァイオリンのトッター・ギウスコウ Tutter Givskov (コペンハーゲン弦楽四重奏団) ら、デンマークのヴェテランによるモーツァルトが録音された (Classico CLASSCD355、オーボエ四重奏曲と、シュヴェンケ編曲による、五重奏版の《グラン・パルティータ》)。

 2001年のCDの演奏家に選ばれたのはパイゾ四重奏団 Paizo-kvarteten199811月、王立デンマーク音楽アカデミー教授、ティム・フレゼリクセン Tim Frederiksen −− ホルムボー Vagn Holmboe (1909-1996) の室内協奏曲第5番 (ヴィオラと室内管弦楽のための) の録音 (dacapo 8.224063) の独奏者 −− の指導のもと、学生4人で結成されたグループ。アカデミーのクラスの他、彼らは、アマデウス四重奏団、メディチ四重奏団、プラザク四重奏団のマスタークラスにも参加している。2001年のトロンハイム国際室内楽コンペティション (ノルウェー) で優勝。聴衆の支持も集め、賞を受けた。このときの審査委員長、チリンギリアン四重奏団のリーダー、リーヴォン・チリンギリアン Levon Chilingirian は、彼らの演奏について、“完璧な技術と、活気に満ちた独自の解釈を結びつけた” と語っている。同年の春には、ノルウェー各地で演奏旅行も行った。

 このディスクで演奏されているのはベートーヴェンの初期と後期の四重奏曲が1曲ずつ。ハイドンやモーツァルトの影響が濃く残っているハ短調 (作品18-4) と、おそらくベートーヴェンの弦楽四重奏曲のうち、もっとも内面性が強い嬰ハ短調 (作品131) (ハーゲン四重奏団のディスク (DG 459 611-2) と同じ組み合わせなのは偶然?)。ベートーヴェンの音楽を新しい視点からとらえたハーゲンとは対照的に、ヨーロッパの伝統の感じられるアプローチ。ハ短調では、(第1楽章の第1主題など) 大きく抑揚をつけ、メリハリをきかせながら、はつらつと流れる音楽を作っていく。時にはスリリングな盛り上げも。引き締まった美音、正確なリズム、最高度に緻密なアンサンブルなど、あらゆるものを駆使して作曲者の内面に切り込み (嬰ハ短調)、ハ短調では、第1楽章や第3楽章などの焦燥感と不安感を表現するハーゲン四重奏団に対して、パイゾ四重奏団の演奏はベートーヴェンの音楽に真正面からぶつかった感じ。これは、キャリアの差だけではなく、持ち味の違い。

 彼らが弾く楽器は、ヴァイオリンがストラディヴァリウスとヴィヨーム、チェロは19世紀ドイツの楽器。ヴィオラはアマティとされており、いずれも音色に深みがあり、美しい。

 アナ・セリアノイェヴォ Anna Zelianodjevo (第1ヴァイオリン)、キアスティーネ・フトロプ Kirstine Futtrup (第2ヴァイオリン)、マグダ・ステヴェンソン Magda Stevensson (ヴィオラ)、トーケ・メルロプ Toke Møldrup (チェロ)。平均年齢は20歳。率直な姿勢の音楽。

Classico CLASSCD426 ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン (1770-1827) ピアノソナタ全集 第8
 ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品21 ピアノソナタ第13番 変ホ長調 作品27-1
 ピアノソナタ第28番 イ長調 作品101
  アネ・エラン (ピアノ)
  [録音 2001年 カール・ニルセン音楽アカデミー (オーゼンセ)] [制作・録音 カーリン・ユーエンセン]

◇アネ・エラン Anne Øland (b.1949) は、王立デンマーク音楽院でヘアマン・D・コペル Herman D. Koppel (1908-1998) に学んだ後、イタリアとオーストリアに留学してグイド・アゴスティ、ハンス・レイグラーフ、ニキータ・マガロフに師事。1977年にコペンハーゲンでコンサートピアニストとしてデビューした。デンマーク音楽批評家芸術家賞、北欧ピアノ・コンペティション (1978年、スウェーデン) (第1位)、カール・ニルセン/アネ・マリ・カール=ニルセン賞 (1995年) などを受賞。ロンドンのウィグモアホールでの1981年のコンサートも高く評価された。1981年から王立デンマーク音楽院助教授。ソロイスト (デンマーク国立放送交響楽団をはじめとするデンマークの主要なオーケストラと共演)、室内楽奏者として欧米各地で活躍する。カール・ニルセンのピアノ作品全集 (Classico CLASSCD205-6)、ベートーヴェンのソナタ全曲録音シリーズなど、着実に録音活動も行っている。

 Classico のベートーヴェンのソナタ全集は、それぞれのアルバムの曲の組み合わせがおもしろく、1枚のディスクを一夜のコンサートとして、通して聴ける楽しさがある。この最新作のプログラムは3曲。ハイドンに献呈された、才気あふれる作品2 (3曲) と、伝統的ソナタの形式からはずれ、(作品26の変イ長調と同様) 緩徐楽章から始まる作品27の2曲の “幻想曲風ソナタ (Sonata quasi una fantasia) から、それぞれ1曲。そして、後期の傑作群の最初となる作品101のソナタ (イ長調)。エランの演奏のもっとも素晴らしいところは、ベートーヴェンの音楽が微笑みに満ちて聞こえること。作品のスタイルをしっかりとおさえた上で、かなり自由にダイナミックスやテンポを変化させる。イ長調の第3楽章から第4楽章へ移るところ、ピアノの響きが微妙に変化するのが、とりわけ印象的。肩の力を抜いてベートーヴェンのソナタの素晴らしさを味わえるディスク。

cpo 999 865-2 2CD's for price of 1 アトリ・ヘイミル・スヴェインソン (1938-)
 バレエ・オラトリオ《
時間と海 (Tíminn og Vatnið)(1983)
  マルタ・グヴズルーン・ハトルドウルスドウッティル (ソプラノ)
  スヴェルリル・グヴズヨウンソン (カウンターテナー) ベルグソウル・パウルソン (バス)
  レイキャヴィーク室内管弦楽団・合唱団 ポール・ズーコフスキー (指揮)

◇アイスランドの作曲家アトリ・ヘイミル・スヴェインソン Atli Heimir Sveinsson (1938-) のバレエ・オラトリオ (“action drammatica (劇的所作)”) 《時間と海 (Tíminn og Vatnið)》は、1983年に作曲されていながら、ずっと初演されていなかった作品。前年に初演されたオペラ《綾の鼓 (Silkitromman/The Silk Drum)》の「“まさにヴァーグナー” (作曲者自身のことばによる) といった表現主義的ロマンティックな音楽から一転、より感情を抑え、音楽の具象的な眺望をめざす方向にむいた、様式的な変化が感じられるとされる作品」 (ヨーラン・ベリエンダール Göran Bergendal)。この大規模なバレエ《時間と海》は、ステイン・ステイナル Steinn Steinarr の詩集からテクストをとり、ステインの詩に対してアイスランドの作曲家が試みたもっとも精密なアプローチともいわれる (ベリエンダール)。24部の合唱、独唱者、(ヴァイオリン (?) を含まない) 管弦楽、ギター、エレキギター、ベースギター、シンセサイザー、電気音響という編成による、“愛と海と神がいっぱいの夢の国 (アイスランド) からおくる組曲” (アトリ・ヘイミル)。

nosag CD2078 2CD's ガブリエラ・グッリン (1961-)
 ある無実の男のためのレクイエム (Requiem per il uomo iccocente)
  イェスパー・トーブ (バリトン) マークス・レオソン (打楽器) ペール・トゥナーフ (オルガン)
  聖クララ・モテット合唱団 ミカエル・ヴァルデンビ (指揮)

◇2002年3月24日に聖クララ教会 (ストックホルム) で初演された、ガブリエラ・グッリン Gabriella Gullin (b.1961) の新作、《ある無実の男のためのレクイエム (Requiem per il uomo innocente)》の初録音。グリンは、歌曲、合唱曲、室内楽作品、管弦楽作品、オルガン曲など、幅広いジャンルの音楽を書く、スウェーデンの女性作曲家。巧みに感情と知性のバランスをとった、個性的、色彩的なアプローチには定評がある。グリンの《ある無実の男のためのレクイエム》は、《レクイエムとキリエ (Requiem et Kyrie)》、《イントロイトゥス (Introitus)》、《ディエス・イレ (Dies Irae)》、《ドミネ・イェズ・クリステ (Domine Jesu Christe)》、《サンクトゥス (Sanctus)》、《ベネディクトゥス (Benedictus)》、《ピエ・イェズ (Pie Jesu)》、《アニュス・デイ (Agnus Dei)》、《ルクス・エテルナ (Lux Æterna)》、《リベラ・メ (Libera Me)》、《間奏曲 (Intermezzo)》、《イン・パラディスム (In Paradisum)》で構成。《レクイエム》のラテン語の典礼文をテクストとすることにより、全体を、ユダヤの娘との献身的な愛のために命を落とした、古代ローマ時代のひとりのギリシャ青年の魂と神との対話になぞらえる。グレゴリオ聖歌を素材に使うなど、これまでの宗教音楽の伝統を反映させながら、美しく、力強く、瞑想的な音楽にまとめあげられた。

 バリトン (ギリシャ青年の魂) のイェスパー・トーブ Jesper Taube はストック王立オペラの歌手。《セヴィリャの理髪師》のフィガロ、《ドン・カルロ》のロドリーゴなどの役を歌い、フロリダ・グランドオペラでの、《フィガロの結婚》の伯爵役でアメリカ・デビューした。ステーンハンマルのオペラ《ティルフィング》(Sterling CDO1033-2) の録音に羊飼い役で加わった。マークス・レオソン Markus Leoson は、ハンメルトの打楽器協奏曲 (nosag CD071) を録音したばかり打楽器奏者

Simax PSC1164 ルードヴィーグ・イルゲンス・イェンセン (1894-1969)
 パッサカリア (Passacaglia) (1928) 祝祭序曲 (Festouverture) 《頌歌 (Canto d'omaggio)(1950)
 宗教的牧歌 (Pastorale religioso)
 歌曲集《日本の春 (Japanischer Frühling)(1917/1922 rev.1957)
  今日 (Heute) 花咲く小枝 (Der Blütenzweig) 風の中の柳 (Die Weide im Wind)
  ひとりの友に (An einen Freund) 愛の音 (Der Liebeslaut) 考えること (Betrachtung)
  無邪気なたわむれ (Nichts leichter) 寂しさ (Einsam) 変わらぬもの (Dauer im Wechsel)
  ラグンヒル・ハイラン・ソーレンセン (ソプラノ)
  ベルゲン・フィルハーモニック管弦楽団 アイヴィン・オードラン (指揮)

◇ルードヴィーグ・イルゲンス・イェンセン Ludvig Irgens Jensen (1894-1969) は20世紀ノルウェーを代表する作曲家のひとり。ブラームスらのドイツ音楽と、パリで生活した間に触れたフランスの文学と音楽の影響がミックスして、独特の風合いの音楽を作り上げたといわれる。ノルウェーきってのヒューマニストと呼ばれることもあった。歌曲や合唱曲を数多く作曲し、なかでも、聖オーラフ St. Olav (オーラフ二世) の帰郷とスティクレスターの戦いでの死を描いた劇的交響曲《帰郷 (Heimferd)》(1930) は、ノルウェー音楽史上有数の記念碑的な作品とみなされている。

 《パッサカリア》は、1928年、Columbia Records のシューベルト没後100年記念の作曲コンペティションで、アッテルベリの交響曲第6番と第1位を争った作品として有名。作曲者みずから、「宇宙に飛び出していく」と語ったコーダが締めくくる壮大な音楽 (ルード指揮オスロ・フィルハーモニック管弦楽団 (Simax PSC3103) につぐ録音)。

 《日本の春 (Japanischer Frühling)》は、ハンス・ベートゲ Hans Betge がドイツ語に訳した、同名の和歌集 (1911年出版) から選んだ詩 (伊勢、小野小町、紀友則らの作品) に曲をつけた歌曲集 −− 「この花の 一枝 (ひとよ) のうちに 百種 (ももくさ) の 言そ隠 (こも) れる おぼろかにすな」(「万葉集」 藤原広嗣)、「わがやどの 花見がてらに 来る人は ちりなむのちぞ 恋ひしかるべき」 (「古今集」 凡河内躬恒)、「難波潟 (なにはがた) 短き蘆 (あし) の ふしのまも 逢はでこのよを すぐしてよとや」 (「新古今集」 伊勢)、「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」 (「古今集」 小野小町)、「色も香も 同じ昔に さくらめど 年ふる人ぞ あらたまりける」 (「古今集」 紀友則)、そのほか、詠み人知らずの歌。最初はピアノ伴奏のために作曲され、後に、管弦楽用に改訂された。透明感のある抒情が美しい音楽。カリン・ランゲブー Karin Langebo がフィエルスター Øivin Fjerstad 指揮オスロ・フィルハーモニックと共演した録音がある (Simax PSC3118)。《頌歌》と《宗教的牧歌》はこれが初めてのCD録音。

Swedish Society Discofil SCD1103 アルヴェーン・エディション 第3
ヒゥーゴ・アルヴェーン (1871-1960)
 交響曲第3番 ホ長調 作品23
  ストックホルム・フィルハーモニック管弦楽団 ニルス・グレヴィリウス (指揮)
 スウェーデン・ラプソディ第3番《ダーラナ・ラプソディ (Dalarapsodi)》 作品48
  ストックホルム・フィルハーモニック管弦楽団 スティーグ・ヴェステルベリ (指揮) [SCD1008]

◇スウェーデンの民族的ロマンティシズム作曲家、ヒゥーゴ・アルヴェーン Hugo Alfvén (1872-1960) のシリーズ第3作。交響曲第3番は、アルヴェーンが、“ひたすら明るさと光と生きる喜びを求めた” という作品。アルヴェーンの生涯でもっとも幸せだったとされる時期に作曲された。1901年、アルヴェーンは、デンマークの画家PS・クロイヤー P. S. Kröyer (1851-1909) の妻マリ Marie Kröyer と出会い、恋愛関係になったあと、同棲生活に入る (デンマーク絵画史上に残るとされる、クロイヤーの作品 「スケーエン海岸の聖ヨハネ祭の炎」(1906) には、たき火を囲む人々の中に、詩人ホルガー・ドラクマン Holger Drachman (1846-1908) らとともに、妻マリとアルヴェーンも描かれている)。1905年の夏、マリとのイタリア旅行の途中、ソーリで作曲にとりかかる。同年9月にはカプリでオーケストレーションを始め、翌1906年に完成。同年12月にヨーテボリで作曲者自身の指揮により初演され、翌年2月にはストックホルムでも演奏された。イタリアで作曲されながら、曲全体にスウェーデンを思わせる響きがあふれ、アルヴェーンの5曲の交響曲のなかでもっとも親しみやすい作品といわれることが多い。この交響曲は、後に妻となるマリに捧げられた。

 アルヴェーンが3曲書いたスウェーデン・ラプソディの第3番にあたる《ダーラナ・ラプソディ (Dalarapsodi)(1931) について、(交響曲第3番を制作した) フランク・ヘードマン Frank Hedman は、“羊飼いの娘の孤独と夢と憧れ” を描いた作品だと語る。民謡の宝庫といわれ、多くの作曲家たちにインスピレーションを与えてきた、スウェーデン中部のダーラナ地方の民謡が素材として使われている。メランコリーと、その合間の快活な踊り。アルヴェーンが、(有名なスウェーデン・ラプソディ第1番《夏至祭の夜明かし (Midsommarvaka)》 よりも) 自分の心に近い音楽と考えていた作品。

 SCD1008 でリリースされていた音源のアナログ・マスターテープからのディジタル・リマスター。ジャケットのアートワークは、オリジナル LP を飾った、アナカプリの景色をアルヴェーン自身が描いた絵が使われている。

 

Folk Music 新譜情報

2L 2L10 人から人へ (frå folk te' folk) − オッタダーレンのフィドル音楽
 Bjøynnhallingen (熊のハリング) Valbjørslykkjin (ヴァルビョルの老人)
 Hestleitar'n (馬を追って) Gamal brurmarsj (昔の結婚行進曲)
 Brunsølen (ブルンソーレン) Gamel Eirik-hallingen (悪魔のハリング)
 Springleik (スプリングレイク) (スプリンガル) Brurmarsj (結婚行進曲)
 Goroleikjin (ゴロの調べ) Pær Spelmeinnleik (スペルマン、ペールの調べ)
 Netosætervalsen (ネトセーテルワルツ) ハリング《Liabekken (リアベッケン)》
 Marsj (行進曲) Vriompeisen (つむじ曲がり) Gamel-Sjugurd (老シューグル) Nord og ne'rin
 Storhallingen hass Fel-Jakup (フェル=ヤクプの大ハリング)
 Hull'n hass Pær Klonesbakka (ペール・クローネスバッカが聞いた牧場の歌声)
  クヌート・ヒョーク (ヴァイオリン) ダーグ・ゴールデン (アコーディオン)

◇ミュージシャンからミュージシャンへ、コミュニティからコミュニティへ、国から国へ……そのルートは違っても、民俗音楽は、人から人へ “口伝により” 伝えられてきた。ノルウェーのオッタダーレンという谷でも、シヴェル・ガルモ Syver Garmo をはじめとする多くのミュージシャンたちが伝統の音楽を引き継いできた。その音楽のルーツを探ると、フェル=ヤークプ Fel-Jakup (本名、ヤークプ・オルセン・ロム Jakup Olsen Lom (1821-1876) ) というフィドル弾きにたどり着くといわれる。クヌート・ヒョーク Knut Kjøk (b.1948) とダーグ・ゴールデン Dag Gården (b.1959) が共演したこのディスクでは、オッタダーレン伝統の音楽にくわえ、比較的新しい曲が5曲演奏されている。ふたりのミュージシャンのくつろいだ演奏と、2L の、落ち着きのいい、鮮明な録音が、はるかな谷間の空気を伝えてくれる。

 

いろいろと

 少し涼しくなったと思ったら、とんでもなく暑い日が戻ってきました。ヨーロッパ大陸は洪水に見舞われるし、スウェーデンでも、いつにない暑さに驚く毎日だったとか。なんだか、おかしな夏でした。

 わたし個人は、新しい分野の人との思わぬ出会いがあったり、(例によって) 夏バテしながらも、いつもの年よりはずっと、はずむような気持ちの夏を過ごすことができました。みなさんは、いかがでしたか?

 そして、ここ数日、なんとなく秋の気配が漂い始めました。今朝などは、めずらしく曇り空です。あと少し。やっと一息つけるような気がします。

 夏の間はどうしても集中力がとぎれがち。まともに音楽を楽しむのはたいへんです。いくら静かだといっても、窓を開けていれば外の音が入ってきます。空気もどことなく重く、これでは人間だけでなくオーディオ装置もベストコンディションというわけにはいきません。夏になると、ロマンティックな音楽にはほとんど手が出ず、どうしてもジャズやロック、あるいはブルースといった、相手から近寄ってくる音楽を聴いてしまうのも、不思議なことではないかもしれません。特に今年はその傾向が強かったように思います。

 しかし秋になると、手元にありながらじっくり聴けないでいたディスクを、やっと取り出すことができそうです。シャルロット・ヘレカントが歌ったニューストレムの歌曲集 (Daphne DAPHNE1017)、オスモ・ヴァンスカとラハティ交響楽団のシベリウスの管弦楽作品集 (BIS CD1225) などは、もう一度、集中して聴きたいと思っています。クフモの室内楽フェスティヴァルのセットも、これからの秋の夕べ、あらためて楽しむことになるでしょう。

 その前にはオーディオ装置のチェックもしなければなりません。コネクター類の接点のクリーニング、左右のスピーカーの入れ替え……季節の変わり目の楽しい作業です。

 音と言うと、このところ、CDの音についてわたしの周辺で話題になっていることがあります。それは、新しいディスクをプレーヤーで初めてかけたときと、二度目とでは音が変わるのではないかということです。初めて聴いたときには何か今ひとつの音だと思ったのが、時間をおいてもう一度聴いてみると、同じディスクとは思えないくらいにおもしろい。ひょっとして、そういう経験はありませんか?

 以前は、気のせいだろうと思っていました。しかし、友人と話していて彼の口からそのことを聞いたときには、さすがに驚きました。しかも、友人の周囲でもそういった声があるとか。“ベールを一枚はずしたくらいに鮮やか”、“音の輪郭がはっきりした”、“音場の見通しがいい”、“空気感が出た”等々。言い方は違いながらも、いずれも音がクリアになったという感想です。広島のミュージシャンに言ってみたところ、その話を聞いたことがあるといいます。

 化学が専門の友人に話したところ、「まさか!」という表情をしていましたが、後日、「音がソフトになった」という返事が返ってきました。ディスクが帯びていた静電気が放出されたのか、一度レーザー光を通すことでCD材料のポリカーボネートの分子配列が整ったのか、理由はわからないものの、とにかく音は変わったと言っています。

 このことは、科学的に測定して明らかにできる問題とも思えません。しかし、音がクリアになることで、曲や演奏の印象ががらっと変わってしまうことさえあります。実際、棚の奥にしまいこんでいたディスクをあらためて聴いてみると、それが意外に楽しめて、なんだか得した気分になったことがあります。

 秋というのは、音楽ファンにとっても、いろいろと楽しみの多い季節。忘れてしまっていたディスクにあらためて触れてみるのも、おもしろいかもしれません。

(TT)


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