Newsletter No.66   18 June 2004

 

Hero? Me, too? − 光通信 Numero kuusi (6)

 Moi!

 フィンランドから発信する「光通信」の第2弾も欲張り企画です。前回 (Newsletter No.52) はCD2枚の紹介でしたが、今回は2部構成にして、CDの紹介と、得がたい経験のことをお話しします。

 まずは、筆者近況……これについては、20031019日付の "in brief" をご覧ください。

 というところで第1部。

 今回のおすすめは、レイフ・セーゲルスタムがデンマーク国立交響楽団 (DR) を指揮したマーラーの交響曲第5番です (Chandos CHAN9403)

 え? マーラー? 小生の中で何が起きたのか、どんな変化があったのかについては調査中。ま、とにかく今回はグスタフ・マーラーです。

 セーゲルスタムのマーラーというと、第10番 (デリック・クック版) を、以前、ヘルシンキ・フィルのコンサートで聴いたことがあります。オーケストラは違いますが、そのときの演奏と DR のこの録音には、ある共通点があると思っています。つまり、マーラーのシンフォニーを北欧のプレーヤーたちが演奏すると、何とも言えない透明感、浮遊感があることです。どこか、さわやか。そういう感じがするマーラーの演奏や録音って、“フリーク”には好まれないかもしれませんが。

 どうしてこんなことになるのか。指揮がセーゲルスタムだからか? 指揮者の感覚ということもあるでしょう。でも、北欧のオーケストラ、プレーヤーたちの音感の要素のほうが大きいと、小生は思います。ひとつの例として、tuubisti 的に言うと、DRtuubisti、イェンス・ビョアン=ラーセン Jens Bjørn-Larsen の音のことが挙げられます。イェンスは、ジュネーブ・コンクール (1994年だったかな?) のテューバ部門で第1位になった、デンマーク指折りの tuubisti です。R・ヴィルヘルムのテューバ小協奏曲 (Rondo RCD8331) やヴァウン・ホルムボーのテューバ協奏曲 (BIS CD802) など、イェンスのソロが聴けるディスクがあるので、「ああ、あの人?」という方がいらっしゃれば嬉しいのですが。

 イェンスのテューバのように、金管楽器が、強烈な、といっても聴き手を殴るのではなく、包み込む感じの音をもっている北欧のオケのマーラー。この感じを味わってみてください。

 ここまでが第1部です。

 "in brief" は、もうお読みになりましたか? 第2部が、いっそうお楽しみいただけます。

 第2部は、ラハティ交響楽団 Sinfonia Lahti 出演リポートです。演奏会評ではなく、あくまで出演報告ですから。

 リハーサル初日。「オハヨーゴザイマス」。オケの最後列 (トランペット、トロンボーン、テューバ) で日本語のあいさつが交わされ、リハーサルに入ります。《幻想》の全体を通してから、第4楽章、第5楽章、第1楽章の練習というスケジュール。小生は、まず第2テューバを吹き、“通し”が終わった後は第1テューバです。何を緊張したのか、まわりの音が聞こえない。耳が悪いのか? 隣から、友人のハッリ・リドスレ Harri Lidsle が細かくダメ出しをしてきます。

 日本では教えてくれない“セクションルール”。理屈ではわかっていても、実践となると……。こういうことを外国語でズバっと言われるとへこんでしまうけど、そんなヒマはありません。このダメ出しは今後の糧になります。いや、糧にします。

 翌日は出番なし。リハーサル会場にも行きませんでした。

 3日目、このリハでも第1テューバ。こんどは、まわりの音も聞こえるようになりました。けど、1回通したら、もう第2テューバ……ちなみに、本番では第2を吹きました。

 こんなことを言っちゃいけないんだろうけど、個人的には、これまでのリハーサルのほうが楽しかったっていうのがあります。だって、たくさん吹けたから。

 演奏会当日は、プログラム順に練習が進められます。前日までと同じく、空き時間は開場の客席から見学です。

 そんなときに思ったのは、「Sinfonia Lahti って、いいオケだなァ」ということでした。そりゃ、毎回のリハーサルがコンサートと同じ会場でできれば、オーケストラも上達しますって。このシベリウスホール、音響のよさはフィンランドでも有名です。

 おもしろいのは、このホールは、客席でコンサートを聴いているときと、プレーヤーとしてステージにいるとき、それもリハーサルと、客席が聴衆で埋まった本番とでは、ぜんぶ違った表情の響きがすることです。そんなホールなんです。ヴァイオリン・セクションで演奏した友人 (学友) も、“聴くとき”と“演奏するとき”で聞こえ方が違ったって言ってたっけ。

 ステージじゃなくて、客席で響いている音を聴くことができる客観的な耳が必要だ、と熱く語った素敵な先生が広島にいたよなあ、たしか。

 さ、いざ本番。

 Harri から frakki (燕尾服) を借りて、「馬子にも衣装」 です……。そして、しばらく待機。

 第4楽章までの時間の長かったこと。その間、オケの熱気を感じたり、音楽に聴き入ったり、客席の友人を捜したり……。コンサートでステージにあがってる時って、そんなものなんです。

 第5楽章、吹いている間は、とにかく楽しかった。"Dies irae" の旋律……惚れ込んだオケのメンバーとして吹いたこと、最初のフィンランド人の友人 Harri と吹いたこと、シベリウスホールに響き渡った音のこと。それを忘れることはないでしょう。

 《幻想》の後はカーテンコール。オペラじゃないので“カーテン”が適切かどうかはわかりませんが、まあ、指揮者がプレーヤーを立たせる、あれです。まず、第3楽章で off-stage のコールアングレを吹いた oboisti を呼び寄せて……中略……最後は第2ヴァイオリン。

 会場のほとんどの人、もちろんオケのメンバーも、「何で?」って思ったみたいです。だけど、今回のフリボー (指揮者のことです) エサ・ヘイッキラ Esa Heikkilä は、ここのオケの第2ヴァイオリン首席奏者。そのことを思い出すと、みんなの表情が、最初の“?”からスマイルに。

 このコンサートは、エサにとっては大事なイベントでした。詳しく調べてないので明言できませんが、このコンサートが、シベリウス・アカデミーの指揮科で勉強するエサのディプロマ試験でもあったと思います。

 コンサートの後は、風邪をひかないように、消毒をしに行きました。どこへ? 気に入りのパブがあるんです。

 このコンサートが終わって2日間ほどは、ボーっとしていました。でも、その後は、学校のオーケストラのスペインへの演奏旅行が待っています。その前に壮行演奏会。ちょっと忙しくなります。ちょうど季節の変わり目にあたるけど、風邪をひいている暇はありません。ということで、喉の消毒に出かけることが多くなりました。ちなみにフィンランドは最近、アルコール飲料の価格が下がりました。ラハティの街には今日も酔っぱらいがたくさん……。

 Sinfonia Lahti 心に残る演奏を約束してくれる素敵なオーケストラ。200310月、東京での《クッレルヴォ》コンサートのこと、各地からかけつけた聴衆のことは、Harri や、コンサートマスターのヤーコ・クーシスト、指揮者のオスモ (ヴァンスカ) も、温かい思い出として語ってくれます。

 “記録よりも記憶に残る演奏”をするオーケストラ。CDしか聴いたことのないあなた、次の来日公演は2006年です。

 はじめてラハティ交響楽団のステージで演奏した次の週、隣の悪友 Harri Lidsle が一言、言ってくれました。"Kiitos viimeisesta!" -- 先週は、ありがとう! これも“記憶に残る”一言……。

 いかがでしたでしょうか、今回の欲張り企画? ご意見、ご感想もお待ちしています。

 ではまた次の機会に。Nähdään silloin!

(HK)


リリース情報

Capriccio 67079 アルヴォ・ペルト (1935-)
 ベルリン・ミサ (Berliner Messe) (1990) (合唱と弦楽オーケストラのための)
 フラトレス (Fratres) (ヴァイオリン、弦楽オーケストラと打楽器のための)
 B-A-C-H の主題によるコラージュ (Collage teemale BACH) (1964)
 ベンジャミン・ブリテン追悼のカントゥス (Cantus in Memoriam Benjamin Britten) (1977)
 モーツァルト=アダージョ (ピアノ三重奏のための)
  アカデミー・オヴ・コーラル・アート合唱団 モスクワ・ヴィルトゥオージ
  ヴラディーミル・スピヴァコフ (ヴァイオリン、指揮)
  ヴァチェスラフ・マリニュク (チェロ) セルゲイ・ベツロードニー (ピアノ)

Euridice EUCD22 Singing Landscape (歌う景色) − トシュタイン・オーゴール=ニルセン (b.1964) 作品集
 クロッシング・ラインズ (Crossing lines) (1998) ブラックライト (Black light) (1991)
 第4の天使 (The Fourth Angel) (1992 rev.2000) (トランペットと管弦楽のための)
 寓話 I (Fabula I) (1996) 寓話 II (Fabula II) (1996)
 シンフォニエッタ (Sinfonietta) (1996-98)
  寓話 III (Fabula III) 寓話 IV (Fabula IV) 寓話 V (Fabula V) 歌う景色 (Singing Landscape)

  ブード・シンフォニエッタ トマス・リームル (指揮)

MTGCD78885 コン・アモーレ
ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン (1770-1827) (ヴェンツェスラウス・マティエグカ (1773-1830) 編曲)
 セレナード ニ長調 作品8 (弦楽三重奏のための) (ヴァイオリン、ヴィオラとギターのための編曲)
アントン・ディアベッリ (1781-1858) セレナータ・コンチェルタータ 作品105
 ア・コルダ (A Corda)
  ビルギッテ・ステルネス (ヴァイオリン) マッティン・ハウグ (ギター)
 ペール・クリスチャン・スカルスタード (ヴィオラ)

◇デュオ、ア・コルダ A Corda は、オスロ近郊の街、ドラメンを見下ろすアウスターの館で行われるコンサートシリーズの中心的存在となるグループ。ビルギッテ・ステルネス Birgitte Stærnes はイサーク・シュルドマン Isaac Shuldman の弟子。ロッテルダムの国際ヴァイオリン・コンペティションで1位。ジャズミュージシャンで作曲家のテリエ・リプダール Terje Rypdal の音楽を演奏したセカンドディスクも好評、2003年5月にウィグモアホール・デビューした。マッティン・ハウグ Martin Haug はノルウェー国立音楽アカデミーでエーリク・ステーンスタヴォル Erik Stenstadvold に師事、1980年にコンサート・デビューする。師弟の共演で録音したファーストCD、ロワイエの2つのギターのための作品集 (Simax PSC1189) はイタリアの雑誌 "Il Fronnimo" の年間最優秀ディスクに選ばれた。オスロ弦楽四重奏団の第2ヴァイオリン、ペール・クリスチャン・スカルスタード Per Kristian Skalstad がヴィオラ奏者として、この録音に参加している。[MTGCD78885 ブックレットから]

Phono Suecia PSCD161 ウッレ・アードルフソン (1934-2004) 合唱のための作品集
 今、夕べが訪れると (Nu kommer kvällen) (1972) 五月の歌 (Majvisa) (1961)
 スウェーデン語ミサ (Mässa på svenska språket) (1983)
 コラール (Koral) (1998) 時は流れ去り (Så rinner tiden bort) (1982) アリア (Aria) (1985)
 そうして、われらの時は尽き (Så går vi bort) (1982)
  ストックホルム大聖堂合唱団 グスタフ・シェークヴィスト (指揮)

◇ウッレ・アードルフソン Olle Adolphson (1934-2004) はシンガーソングライター、詩人として有名だった人。合唱曲などの作曲家としても活動。キリエ、グローリア、クレード、サンクゥス、アニュス・デイがスウェーデン語によるミサ通常文をテクストに歌われる《スウェーデン語ミサ (Mässa på svenska språket)》 は、デンマークの合唱団の委嘱で作曲され、1983年に初演された。彼と親交のあったグスタフ・シェークヴィスト Gustaf Sjökvist (b.1943) がストックホルム大聖堂合唱団を指揮して録音したこのポートレートアルバムには、ミサ曲を核に、愛、光と影、生と死などをテーマとする合唱曲が選ばれた。2003年の9月と11月に行われた録音の編集作業中の310日、アードルフソンはストックホルムで死去。アルバムのカバーアートにはアードルフソンの書いた絵が使われた。アードフルソンの歌は、合唱指揮者ロベルト・スンドによる男声合唱のための編曲で数曲を聴くことができる (BIS CD833 (OD)CD591 (ウプサラ大学男声合唱団))。[PSCD161 ブックレットから]

Vest Norsk Plateselskap VNP2004-0061
 Reflections (内省) − エドヴァルド・ハーゲルプ・ブル (b.1922) 室内楽作品集
 エピローグ (Epilogue) 作品26
 
《失われた世界の記憶へのオマージュ (Hommage à la mémoire d'un monde perdu)(1961)
  (弦楽オーケストラのための)
  室内管弦楽団 リカルド・オドリオソーラ (指揮)
 ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲第2番 作品44c (1973)
  リカルド・オドリオソーラ (ヴァイオリン) アイナル・ロッティンゲン (ピアノ)
 カッサシオン (Cassation) 作品22 (1959) (室内オーケストラのための)
  室内管弦楽団 リカルド・オドリオソーラ (指揮)
 ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲第1番 作品18a (1956)
  リカルド・オドリオソーラ (ヴァイオリン) アイナル・ロッティンゲン (ピアノ)
 ソナタ・コン・モート (Sonata con Moto) 作品51b (1982) (ピアノ三重奏のための)
  トルライフ・トルゲルセン (ピアノ) リカルド・オドリオソーラ (ヴァイオリン) オイスタイン・ソンスタード (チェロ)
  [録音 2001520日、200247日 ベルゲン (ライヴ)]

◇エドヴァルド・ハーゲルプ・ブル Edvard Hagerup Bull は、“予言者故郷に容れられず” を体現した作曲家。オスロでオルガン、ピアノ、作曲法 −− ビャーネ・ブルースター Bjarne Brustad (1895-1978) とルードヴィーグ・イルゲンス=イェンセン Ludvig Irgens-Jensen (1894-1969) −− を学んだ後、パリ、その後ベルリンに留学する。師事した作曲家は、ミヨー、リヴィエ、ケクラン、メシアン (楽曲分析)、ブラッヒャー、ヨーゼフ・ルーファー (楽曲分析)。帰国後、作曲家活動に入るものの、1963年の交響曲第2番初演の酷評に代表される無関心と敵意に嫌気がさし、フランスに移住する。ラジオ・フランス、アンサンブル・モデルヌ・ド・パリをはじめとする団体から作曲の依頼が寄せられ、フランス文化省からの委嘱では交響曲第5番とフルート協奏曲を完成させた。1987年に帰国。2002年に、1964年作曲の交響曲第3番がやっと世界初演された。ハーゲルプ・ブルの音楽の特徴として、いくつかのことが挙げられる。比較的小さな作品が多い。2つから4つの楽章 (曲) で構成され、それぞれの楽章の中でたえず曲想が変化する。同じ楽想が、現れるたびに形を変える。彼の音楽はきわめて人間的で、一見ごつごつした表面の下に、陽気さ、肯定的な人生観がうかがえる。[リカルド・オドリオソーラ VNP2004-0061 ブックレットから]


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